『秘密の花園』ノート 梨木香歩

『秘密の花園』ノート (岩波ブックレット) (岩波ブックレット NO. 773)作者: 梨木 香歩出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2010/01/09メディア: 単行本(ソフトカバー) バーネットの『秘密の花園』を読み解くためのテキストです。 『秘密の花園』はインドで親に顧みられることなく育った少女メアリが、両親の死後イギリスの親戚に引き取られ、「秘密の花園」を見つけ再生することで自身の心と身体も再生していくというお話です。 ノートはストーリーの流れに沿いながら、場所が持つ意味や細々とした事物、動植物、端役の役割を考察していきます。 思えばメアリは召使に世話をされるだけで、人とのまともなコミュニケーションがほとんどない状態で育っています。先日『秘密の花園』を読んだときも、そこが一番心に引っかかったのでした。両親が死んで一人残されても、生活環境が変わっても、寂しい悲しいといった感情は湧かないのです。なにかあれば不快になるだけ。 人にほとんど使われていないがらんとした屋敷や、その一族と場所が醸し出す、子供が健康に育たない消極的な悪意のようなものを指摘する部分に、私のさびしー気持ちが反応してしまいました。や、私は別に不幸な生い立ちではないんですが。 一方で甘えることを知らず人を顎で使うようなメアリの性向が、心身の変化に伴って、媚びずに人に率直に物を言う芯の強さになっていくところには「うんうん」とうなずいたりしました。 本の読み方はひとつではないので、テキス…

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『秘密の花園』読んだよ、堀江敏幸買ったよ

『秘密の花園』バーネット 来月、岩波のブックレットで梨木香歩「『秘密の花園』ノート」が出るので読んでみました。 裕福であっても親から顧みられず、わがままに育ったメアリとコリンの境遇は、不幸のどん底で周囲にいびられながらも真直ぐ育つ健気な子供よりも現代的かもしれないと少し思いました。 その一方でイギリスの上流階級で親が子供に無関心というか、あまり関わらないような習慣が一部あったのかしらんと思ったり。 イギリス貴族の大邸宅で生まれ育ち、現在京都にお住まいのベニシア・スタンリー・スミスさんが、「子供の頃、両親に会うのは1日5分だった」と仰っていて驚いたことを思い出します。 ここから先は買った本。 『一階でも二階でもない夜 回送電車Ⅱ』堀江敏幸 単行本で読んでいます。書名のリンクはそのときの感想です。文庫化されたので購入。 『書かれる手』堀江敏幸 出てるのを知りませんでした。上の文庫を検索していて見つけました。即購入。これは未読です。 そういえば『本の音』も未読なんですが、出版社が晶文社です…。どこかで文庫で出したりはしないのでしょうか。 『前巷説百物語 』京極夏彦 こちらも単行本では読書済み。やはりカバーは旧鼠でした。子猫ちゃんがかわいい。解説はなぜか宇江佐真理。依頼されたご本人も少々訝っていた模様。 『お菓子と麦酒』サマセット・モーム 先日ふらりと立ち寄った古本屋で購入。気になっていたのです。 買うと安心、読…

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『RDG2 レッドデータガール はじめてのお化粧』荻原規子

RDG2 レッドデータガール はじめてのお化粧 (カドカワ銀のさじシリーズ)作者: 荻原 規子出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)発売日: 2009/05/29メディア: 単行本 『RDG レッドデータガール はじめてのお使い』の続編です。 私は児童書のタグをつけてますが、カドカワ銀のさじシリーズは「子どもから大人まで楽しめるファンタジー」というコンセプトのようです。 今回はおもいきり学園物。高校生になる泉水子は紀伊を出て東京の鳳城学園に入学します。学園には有能な学生がひしめいていて、相変わらずまごまごする泉水子であります。 学園の謎あり、山伏や陰陽師といった日本古来から続く存在あり、超人のようでいても普通の高校生が抱えるような心の揺れありで楽しかったです。 さくっと読めるわりに、背後の世界観に広がりがあります。 古来からある神秘的な力。それらをめぐる暗闘。山や木々が発する清浄な気みたいなものを、泉水子を通して感じること。 過去の存在に思いを馳せたり、身体感覚を呼び覚ますところが私は好きなんですよね。 続きが読みたいと思わせる荻原規子の力はたいしたもんです。 ここから脱線。 イザベラ・バードは伊勢神宮を訪れたとき、「からっぽでおそろしい」というような感想をもらしています。 大雑把にいえば、神道にはキリスト教や仏教のような教義は無いので、そう感じるのもわからないでもないです。からっぽだから政治の具になるというのも当たっていま…

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カニグズバーグを二冊

『クローディアの秘密』E.L.カニグズバーグ 日常生活にあきあきしたクローディアは家出を決行。小金持ちの弟を誘い、落ち着いた先はメトロポリタン美術館です。そこで二人は、とある美術品の謎を解こうとするのですが…。 お金のこと以外は慎重で計画的なクローディアと、大胆だけれど締まり屋の弟ジェイミー。都会っ子の家出生活がいいです。美術館に勝手にお泊りなんて楽しいなあ。一人だと肝試しみたいで怖いけれど、二人だとスリルになります。 魅力のある場所と謎、加えて思春期に入るクローディアの心の動きが盛り込まれていて、なかなか読ませます。 『ジョコンダ夫人の肖像』E.L.カニグズバーグ これ上手いなー。史実を背景に実在の人物を配置し、隙間をフィクションで埋めて、レオナルド・ダ・ヴィンチと一枚の肖像画にまつわる話を創造しています。 偉大な芸術家レオナルド。レオナルドに拾われた、こそ泥の美少年サライ。そして器量がよくないことに引け目を感じながらも、知性のあるミラノ公妃ベアトリチェ。 彼らはそれぞれに人や物に対して、本質的なところを見抜く眼をもっています。 この三人の関係と心理が、一枚の肖像画に見事に繋がっています。 二冊読んで思ったのは、クローディアとジェイミーはドライだし、サライはけっこうシビアに人を見ているんだけれど、むぎゅっと抱きしめたくなるような可愛さも滲んできます。でも妙な甘さは無くてよいです。

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『時の旅人』アリソン・アトリー

時の旅人 (岩波少年文庫)Alison Uttley 松野 正子 岩波書店 2000-11by G-Tools ロンドンに家族と一緒に住んでいるペネロピーは、体が弱くて学校も休みがち。本を読み、絵を描き、空想するのが好きな女の子です。療養のため、ダービシャーにある親戚の農場にやってきたペネロピーは、16世紀の荘園に迷い込み、歴史上の事件に関わった一族に出会うのでありました。 ペネロピーの滞在するサッカーズ農場は、その昔、幽閉されているスコットランド女王メアリーの脱出計画に関わった貴族の領主館でした。母方の一族は代々その領主に仕えていたのです。 しみじみと胸に残るのは、牧草地と畑と森に囲まれたサッカーズ農場の風景と、日々の営みです。この描写が緻密であたたかくて素晴らしい。ペネロピーのまなざしから、屋敷や土地に宿る人々の記憶と思いが引き出されていくようです。暖炉のある台所で作られる素朴な料理、壁にかかった道具…。 ペネロピーは今の時間から外れて過去に旅しているけれど、読んでいる私には、多重露出撮影された写真のように、300年前の人々の暮らしと運命が、現在の農場と重なって見えるように思えました。 サッカーズという、わりと狭い範囲での話ですが、懐が深くって、読んでいる間ずっとサッカーズの空気にくるまれていました。

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『RDG レッドデータガール はじめてのお使い』荻原規子

RDG レッドデータガール はじめてのお使い (カドカワ銀のさじシリーズ)荻原 規子角川グループパブリッシング 2008-07-04by G-Tools 修験道を題材にした、現代が舞台のファンタジーです。 正直、中盤まではどうなることかと思いました。 熊野古道に接する玉倉神社に育った鈴原泉水子(すずはらいずみこ)は、長いお下げ髪にメガネをかけた、引っ込み思案な中学三年生。 この主人公の内気ぶりがはんぱじゃないです。怖い、できないと思ったら人任せの、あまりの幼稚さにイライラ必至です。仕事で不在の両親は、母親は警視庁公安部に勤め、コンピュータプログラマーの父は大手に引き抜かれてシリコンバレーで働き、父の友人・相楽はやたらと有能で男前、相楽の息子の深行(みゆき)は泉水子と同じ中三で、秀才でスポーツ万能でもちろん男前。 主人公の周囲にいる人間がみな超人で、違う意味でファンタジーな設定がちょっとキツイなあ、と思っていました。 でも後半、話がぐんぐん動き始めると、極端な設定も納得がいくし、昔の日本の信仰と現代がうまく絡み合っていて、物語のさらなる広がりが期待できました。 要するに面白かったんですよう。

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『流れ行く者』上橋菜穂子

流れ行く者―守り人短編集 (偕成社ワンダーランド 36) (偕成社ワンダーランド 36)二木真希子 偕成社 2008-04-15by G-Tools 守り人シリーズの番外編。バルサ13歳、タンダが11歳のころのエピソードを綴った短編集です。 あたたかい家族に囲まれたタンダの里での生活。トロガイ師のもとに身を寄せたり、追手を逃れて用心棒稼業をしながら流れていくジグロとバルサの過酷な暮らし。 本編ではすでに大人になっている二人の子供時代が、丹念な世界描写のなかに息づいていました。 タンダなんかほんとうにお子様なんですが、思いやりと探究心があって、あのタンダにちゃんと繋がっていますね。 そしてバルサの現在の姿を形成するのに、避けては通れない出来事も容赦なく描かれます。 カバーもそうだけど中身も燻し銀の魅力です。ジグロとバルサのほかにも、「浮き籾」に登場する、里を離れて好き勝手に生きたオンザ、「ラフラ <賭事師>」のラフラの老女アズノ、「流れ行く者」で氏族から外れ隊商の護衛士をしている初老のカンバル人スマルといった、浮き草の人生の末がそれぞれに描かれていているのが良かったりします。

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『宝島』R・L・スティーブンソン

宝島 (福音館文庫)ロバート L スティーブンソン福音館書店 2002-06-14by G-Tools 先日読んだ『灯台守の話』に、スティーヴンソンがちょい役で出てきます。彼の祖父や父は灯台建築技師で、『灯台守の話』の灯台もスティーヴンソンの一族が建てたという設定でした。主人公はシルバー、盲目の灯台守はピューという名前なのですが、訳者の岸本さんの解説で、『宝島』にはシルバーやピューという名前の海賊が登場すると知り、どれどれ? という興味で読んでみました。 宿屋「ベンボー提督亭」の息子ジムは、客の老水夫が残した宝島の地図を手に入れます。ジム少年は地主さんや医者のリブジー先生と冒険の旅に出たものの、おしゃべりな地主さんの雇った船員のなかには、恐ろしい海賊が紛れ込んでいて、裏切りや息が詰まる駆け引きが展開していくというお話です。 いきなりですが宝島の地図を見た瞬間、…九州? と思いました。だってだって島の北西側は長崎みたいに半島になっているし、ラム入江は別府湾みたいだし、南側の骸骨島だって桜島ぽいですよ。ちょっと無理があるけど。その見立てでいくと、お宝の大部分は熊本に隠され、あと佐賀と福岡のあたりにも隠したしるしが付いてます。 宝島九州説はもういいですか? 物語自体はお宝探しの夢もあるけれど、荒くれ男たちの肉づけがとてもよいです。人間同士のやりとりが演劇の一場面のように、くっきりと丁寧に描かれていました。私が子供だったら読み聞かせてもらいたいなーなんて思います。でも血なまぐさい場…

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『この庭に 黒いミンクの話』梨木香歩

この庭に―黒いミンクの話須藤 由希子 理論社 2006-12-13by G-Tools 絵本というか…児童書に入るのでしょうか。 さらに副題をつけるなら「ミケルの飲んだくれの日々」ですかね。 ミケルがなにかとても耐え難い気分になって、冬眠する熊のごとく北国の一軒家にひきこもり、夢現の日々を送るのです。 借りた家には庭があります。ここを出入り口として出来事があるわけですが、庭って外でもあり、また家の延長でもあって、心理的にも一種の緩衝地帯ともいえます。 庭の草木にこんもりと雪が積もった絵は好きだなあ。 『からくりからくさ』『りかさん』につらなる話なので、一緒に二冊の文庫も再読しました。そこからミケルの苦悩を勝手に妄想してしまうのですけど、彼女はこだわりの強い性質みたいなので、生きるのにいろいろと骨が折れるのでしょうね。

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『天と地の守り人 第三部』上橋菜穂子

天と地の守り人 第3部 (3) (偕成社ワンダーランド 34)二木 真希子 偕成社 2007-02by G-Tools 終わりましたー。 タルシュ帝国の侵攻、ナユグの異変によるサグの天災で、新ヨゴ皇国の国土も民もタンダたち兵も、そしてロタとカンバルの混成軍を率いて祖国に戻ったチャグムも、みんな傷だらけです。 本編はこれで幕となるので、登場人物にはなにがしかの結果がもたらされます。嬉しいことばかりではなく、苦さや悲しみもセットで。 このシリーズ、ファンタジーではありますが、国や個人の思惑が絡まりあって生まれる激流の中をひたむきに生きる、そんな人々が奇を衒うことなく描かれています。なので少し地味にも思えますが、逆に古びない物語であるとも言えますかね。 読んだ方はわかるでしょうが、チャグムをはじめ男たちがよく泣きますよねー。でもそれは自分が可哀相な涙ではなく、想像力があるから流れる涙なんですよね。

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『天と地の守り人 第二部』上橋菜穂子

天と地の守り人 第2部 (2) (偕成社ワンダーランド 33)二木 真希子 偕成社 2007-01by G-Tools なんの後ろ盾もないチャグムはロタとの同盟を結ぶことが出来ず、カンバルへと向かいます。彼を追ってきたバルサと合流し、タルシュの脅威から北の大陸を守るためにロタとカンバルの同盟を実現しようと駆け回ります。が、ふたりの前にはタルシュの刺客やタルシュに内通するカンバルの人間が立ちはだかります。 新ヨゴ皇国の帝は天ノ神の子であるという思想があって、チャグムの模索する方法とは相容れない部分があります。チャグムが国を出てここまで来るのに様々な経験を積んで成長してきたわけですが、また様々なものも失ってきました。そうやって自分なりの道を歩んだ先には、父との対峙が避けられないものとなって待ち受けているのが切ないです。なんだかんだ言っても、そこがこの巻のチャグムにとって一番苦しいところですもんね。

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『天と地の守り人 第一部』上橋菜穂子

天と地の守り人〈第1部〉 (偕成社ワンダーランド)上橋 菜穂子偕成社 2006-11by G-Tools 守り人シリーズ最終章三部作の一冊。 行方も生死も不明なチャグムを捜しに、バルサはロタ王国へと向かいます。 前作までの話では、チャグムはロタ王国やカンバル王国と同盟してタルシュ帝国に対抗するという希望を抱いて旅立ちました。 この第一部では、新ヨゴ皇国はチャグム皇太子逝去と第二皇子トゥグムの立太子を発表。タルシュ帝国の侵攻に対しては鎖国という道をとり、備えとして砦を築き、民を草兵としてかき集め最前線に送りこみます。兵の中にはタンダの姿もありました。 バルサは幼い頃から修羅の人生を歩んできて、寄る辺のない子供たちが危難にあうのを見過ごせない性分なんですよね。『神の守り人』でチキサとアスラを助けたのもそうです。チャグムはもう成人だけれど、彼の足跡を追ううちに、どうしても放っておけなくなったバルサの気持ちはわかる気がします。 彼らの行き着いた道の先には何があるのか、物語にどういう決着をつけるのか、はやく続きが読みたいですー。

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