『ソラリス』スタニスワフ・レム

ソラリス (スタニスワフ・レム コレクション)作者: スタニスワフ レム出版社/メーカー: 国書刊行会発売日: 2004/09メディア: 単行本 惑星ソラリスの海から昔の恋人がやってくる…。 読む前にそんなイメージだけが私の頭に刷り込まれていた『ソラリス』。観たことないですけど、映画の宣伝か何かの影響だったのでしょうか。実際は恋愛モノという意識はないまま読了しました。いや、そういう要素はありますけども。 頭に浮かんだ断片だけつぶやいておこうかな。内容に触れるので続きは以下で。

続きを読む

『宇宙舟歌』R・A・ラファティ

宇宙舟歌 (未来の文学)R.A. Lafferty 柳下 毅一郎 国書刊行会 2005-10by G-Tools 本家ホメロスの記憶が生々しいうちに『宇宙舟歌』にいきます。 ラファティによる宇宙版『オデュッセイア』です。 どこかを漂流する設定だけを借りてるのかと思いきや、元の話をラファティ流の法螺で料理した語りなおしと言ってもいいです。 ロードストラム船長と乗組員たちが奇妙な星を旅する連作短編ふうの物語になっています。 最初はあまりピンとこなかったけれど、第二章からじわじわきました。バカバカしいにもかかわらず第二章のクライマックスで、あなたは神話になった、英雄になったよ、偉大なロードストラム船長、と感嘆符を連打したくなりました。 元ネタが英雄叙事詩で、これもロードストラム船長たちの冒険を詩歌に詠んでたたえたりしています。でも帰りたいのに帰れない漂流譚ではなく、船頭さんと漕ぎ手がえんやこらと歌いながら波を越え、自ら進んでおかしな冒険に向かっていく、そんな気分の話でした。 『オデュッセイア』を読んだからには『ユリシーズ』もそのうちにと思うし、ラファティを読むならラブレーも、などと読書欲が膨らむ今日この頃です。

続きを読む

『カエアンの聖衣』バリントン・J・ベイリー

カエアンの聖衣 (ハヤカワ文庫 SF 512)冬川 亘 早川書房 1983-01by G-Tools 衣服こそがその人の意識を表す。そんな哲学をもつカエアン文明を調査するため、敵対関係にあるジアードの文化人類学者アマラたちは宇宙を駆け巡ります。一方、カエアンの難破船から積荷を奪ったジアードの男が手に入れた一着のスーツとは…。 はっはっは。ばかばかしい発想のかたまりを、こねてまとめて引き延ばし、畳んではまた引き延ばす。そうして細く無限に引き延ばされたかたまりは、手延べ素麺のようにつるつると読者の喉を通っていきます。バリントン・J・ベイリーの、どうかしてるとしか言いようのないアイデアと無茶な展開は好きだなあ。 考えたら制服は端的に所属をあらわすし、こう見られたいというセルフイメージを衣服で表現したりしますよね。そこを拡大して作られたカエアン世界のフィールドワークってだけでもわくわくしました。 キャラではイカサマ師のリアルト・マストがお気に入り。カリスマ性のある美男です。導入部で彼は緑色のビロードのチョッキを着て、アール・ヌーヴォーの長椅子に優雅に寝そべっています。 このセンスに対抗できるのは、ブランデーグラスと葉巻を両手に持ち、ガウンを羽織り、足を組んでソファに腰掛ける石原裕次郎しか居るまい、と思った次第です。

続きを読む

『火星夜想曲』イアン・マクドナルド

火星夜想曲 (ハヤカワ文庫SF)Ian McDonald 古沢 嘉通 早川書房 1997-08by G-Tools 砂漠の真ん中に町が生まれて半世紀後に消えていくまでの物語です。 『火星年代記』や『百年の孤独』を彷彿とさせる。そんな評を読む前に目にしていましたが、よくわかりました。 火星の砂漠に生まれた町の年代記を、マジックリアリズムの手法を取り入れて描いているんですね。 砂漠を旅していたアリマンタンド博士が小さなオアシスに留まり、そこに犯罪組織の頭だとか見分けのつかない三つ子ちゃんだとか、奇妙なひとびとが流れ着いて町を形成していきます。その様子が、変なたとえなんだけれどアリの巣や動物のコロニーが出来るのを眺めているようで面白いのです。 その後、町で生まれ育った世代が外の世界へ出て、紆余曲折のエピソードが続くところはちょっと長いなーと思ってしまいましたが。 人が集まってくる前半と、町が終りを迎えようとしているラスト近くの雰囲気は好きです。不思議と町にも住民にも愛着がわいて、湿っぽくはない、ほんの少しの哀感が漂います。 あ、全体の乗りにはユーモアがありますね。サービス精神が旺盛なのかな。

続きを読む

『エア』ジェフ・ライマン

エア (プラチナ・ファンタジイ) (プラチナ・ファンタジイ)ジェフ・ライマン早川書房 2008-05-23by G-Tools 機器を介さず、脳内に直接ネットワークシステムを構築し人々をつなぐ新システム「エア」。情報格差を無くす、ネットの親玉みたいな「エア」によってもたらされる変化を、中央アジアの山奥に住む女性・メイの視点から描くSFです。 読む前に期待しすぎたかな、というのが正直なところです。 押し寄せる情報とグローバリズムによって、今の生活が一変する、いや、自ら変化してその波を越えていかねばならないと感じるメイのあせりと空回りっぷりはよくわかります。 近未来が舞台のせいもあるけど、現在の延長線上にあるような、よく言えば想像しやすい、悪く言えば面白みの無い展開に、私の興味が徐々にしぼんでいったのが残念でした。 あと、メイの頭の中がアメリカナイズというか、西洋化され過ぎているのもどうかなあと。憧れがあるからだろうけど、その価値観マンセーみたいな感じがちょっと引っかかりました。

続きを読む

『山椒魚戦争』カレル・チャペック

山椒魚戦争 (岩波文庫)Karel Capek 栗栖 継 岩波書店 2003-06-13by G-Tools 南太平洋の小島で、大山椒魚に似た、二本足で歩く生物が発見されます。賢く穏やかな性質に目をつけた人間は、彼らを労働力として利用しますが、山椒魚は世界各地で繁殖し、やがて騒動がまきおこる…という話です。 数がふえ知恵を増した山椒魚と、対する人間の反応が、そのまま人間社会の風刺になっています。未開の地の住人やマイノリティーを愚かで従順な弱者とみなし、優越を感じるようないやらしさや、当時の体制などを辛辣に切り刻んでいますが、その書きっぷりには常にユーモアがあります。日本もちょこちょこコケにされているんだけれども、うへーと思いながら笑いが浮かぶんですよね。 その全体主義批判から本国でも禁書になったり、内容が削除されるといういきさつがある本で、訳者の栗栖氏が、完全なものを目指して資料を集めた執念ともいえる熱意は、大量の訳注、はしがき+解説+あとがきでよくわかりました。(笑) いや、いい意味で。 岩波版(1958年チェコ語版が底本)の前に、創元推理文庫版(ドイツ語版からの重訳)を読んだのですが、こちらは「第Ⅱ部 文明の階段を登る」を中心に、だいぶ削除されているところがありました。 あと、底本も訳者も違うので、会話の雰囲気なんかも違います。奇人のヴァン・トッホ船長(岩波版ではヴァン・トフ船長)は、悪態をついていても愛嬌のあるおやっさんという感じです。岩波のは、それより少し灰汁が抜け…

続きを読む

もっと見る