『地下室の手記』ドストエフスキー

地下室の手記(光文社古典新訳文庫)安岡 治子 光文社 2007-05-10by G-Tools 腹を抱えて笑いました。 四十歳の元役人の男が、その自意識の過剰さゆえに周囲との関係を絶ってひきこもる話です。 Ⅰでは自身の現在の境遇と見解を述べています。が、これが抽象的で全然わからん。ひきこもっている地下室から、外の世界への呪詛と言い訳を延々と垂れ流しているのだけは理解しました。 で、なんで俺がこうなったのかを明らかにする手記がⅡで登場します。 他人の目に映る自分を意識しすぎて、あさっての方向に弾ける主人公が可笑しすぎます。 嫌な思いをした相手を恨み続け、暴露小説を書いて出版社に送ってみたり、謝罪してくれないと決闘だぞ、と妄想が炸裂する手紙を書いてみたり。結局手紙は出来事から二年も経っていたので出すのをやめるわけです。高いプライドと、自分に対する周りの評価が不当に低いという断定に引き裂かれたイカレた行動に、そんなの相手は覚えてないって! などと、合いの手を入れっぱなしでした。そしてⅡを読んでからⅠに戻って、彼のねじけぐあいを再び確かめてみたくなるのですよね。これは主人公の罠にかかったのではなかろうか…なんて思ったりします。しかし彼の熱狂っぷりはすごいですよ。

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『銀河ヒッチハイク・ガイド』『宇宙の果てのレストラン』ダグラス・アダムス

木曜日の朝、英国人のアーサーの家はバイパス建設のため取り壊されようとしていた。しかしその日、銀河バイパス建設のために地球は取り壊され消滅。地球人最後の生き残りとなったアーサーは、実は宇宙人だった友人のフォードと一緒に、宇宙でヒッチハイクをすることになる。 いかにもイギリスな皮肉がきいた笑いとシュールなセンスのSFコメディ。移動中に読むのに最適な本ですけど、人前で笑うのを我慢して、く、などと変な声が出そうになるのが危ないです。 アーサーとフォードは、無限不可能性ドライブを実現した宇宙船に拾われて旅する事になります。淡々とした会話も面白いですけど、私はレストラン「ミリウェイズ」での予言者再来の場面や、真っ黒すぎて形がわからず摩擦がゼロで触れない、という小型宇宙船の描写がばかばかしくて好き。 そんなバカSFでも、生命・宇宙についての真理の探究のような、哲学的な要素もちゃんと入っています。無限の森羅万象の中での自分の位置や対象との距離に、どう折り合いをつけるかがシニカルに描かれていて楽しゅうございました。

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『碧血剣』金庸

碧血剣〈3〉北京落城 (徳間文庫)金 庸 小島 早依 徳間書店 2001-09by G-Tools 碧血剣〈1〉復讐の金蛇剣 碧血剣〈2〉ホンタイジ暗殺 時代は明末(17世紀前半)、名将・袁崇煥は無実の罪により崇禎皇帝に処刑される。 明朝が満州族の侵攻と李自成らの反乱に揺れるなか、復讐を誓った袁崇煥の遺児・袁承志(えん しょうし)は崋山派の門弟になり武術を学ぶ。 崋山の山中で偶然、伝説の侠客である金蛇郎君の遺骸を見つけた彼は「金蛇秘笈」を修得、李自成らの支援をしている師父に合流するため下山し、旅立ったのだった。 超人のごとく強い袁承志を主人公にして、道義を重んじる江湖の世界側から歴史の大きな流れを描きます。 承志を可愛がる師父たち、お金に目がない敵の武芸者たち、お約束のように承志に惹かれる美少女たち。出てくる武林の実力者たちが魅力にあふれていて、闘いの場面はつっこみ所満載、「バカだー」と笑わせて頂きました。 『雪山飛狐』でも書きましたが、過酷な運命でも変な悲壮感が無いからっとした筆運びと、駄目だと思えば素早く見切りをつけて新たな道を見つけていくところが、日本人の書くものとは違う気がします。 登場人物では、ここまで強くて真面目な承志は逆に面白みのない男で、人格が半端でなく偏った金蛇郎君と、金蛇郎君に激しく恋焦がれていた何紅薬のほうが私は好きだなあなんて思ってしまいました。

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『園芸家12カ月』カレル・チャペック

園芸家12カ月 (中公文庫)カレル チャペック中央公論社 1996-03by G-Tools 園芸をこよなく愛するチェコの著名な作家カレル・チャペックが、土に親しむ園芸家およびマニアのよろこびと悩みを、詩情にあふれた軽妙洒脱な文章で描きます。 「庭をつくるには」「園芸家になるには」からはじまって、1月から12月までの園芸家の生態(?)が書かれていますが、画家で詩人でもある、兄のヨゼフ・チャペックの描く挿絵とあいまってとても愉快。 いい土以上に美しいものはないのだと力説したり、植えるスペースがないほどの苗を前に身悶えしたりと、園芸が好きな人なら思わず笑い頷いてしまいます。 そんな中で「11月の園芸家」の一文が心に残りました。 春は芽をふく時だとわたしたちは言っている。ところが、じっさいは秋だ。(中略)いまのうちに支度をしておかないと、春になっても支度はできない。未来はわたしたちの前にあるのではなく、もうここにあるのだ。未来は芽の姿で、わたしたちといっしょにいる。いま、わたしたちといっしょにいないものは、将来もいない。芽がわたしたちに見えないのは、土の下にあるからだ。未来がわたしたちに見えないのは、いっしょにいるからだ。

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『人格転移の殺人』西澤保彦

人格転移の殺人 (講談社文庫)西澤 保彦講談社 2000-02by G-Tools カリフォルニアのあるファーストフード店にいた客達は、突然の大地震に遭遇しシェルターと思われる施設へ逃げこんだ。しかしそれは人格交換を起こす秘密装置だった。隔絶された空間で起きる連続殺人。犯人は一体誰の人格なのか? SFちっくですけど、装置自体は謎のままです。6人の人格が転移するのには法則があって、いわばフォークダンスのオクラホマミキサーのように人格と肉体がぐるぐると入れ替わり、それが死ぬまで続きます。ある人の肉体が死んだとき、その時点で入っていた人格も一緒に死んでしまうので、肉体と人格が一致していなかった場合、外見上は誰の人格なのか解らなくなるという…設定がバカです。←ほめ言葉 犯人も動機もきちんと説明されていて面白いです。そして笑わせてもらいました。

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