過去を振り返る

あけましておめでとうございます。 カテゴリが1年飛んでいるような気がしますが、昨年の読書を振り返ることにしましょう。 メモをめくると山田稔、多和田葉子に惹かれ、安部公房の再読を始めています。 山田稔の「どこにも力みが感ぜられず、読むうちにこちらの力みも揉みしだかれる」と小沼丹の文章を評しているのに触発されて未知谷の『小沼丹全集』を読了。 補巻を入れて全五巻。大寺さんものと随筆が特に好きです。追憶に追憶が重なって、時系列を無視して記憶のなかを漂ったり、庭の木や小鳥、知人についての話など、なにげない短い散文に心がほぐれます。 翻訳物ではメルヴィル『白鯨』が叙事詩風といいますか神話っぽくて楽しめました。 そして年末年始に読んだばかりのナボコフ『ロシア文学講義』と『ヨーロッパ文学講義』が面白いです。ナボコフが小説のどこに重きを置くのかがびしびしと伝わってきます。細部と構造、文体について熱く語り、トルストイを絶賛してドストエフスキーを否定するナボコフですが、彼の評価には明確な基準があるから偏りがあっても面白いです。 『ヨーロッパ文学講義』は今月河出文庫で『ナボコフの文学講義』上下巻として出ます。 2012年のベストはなんといってもゼーバルト『アウステルリッツ』でしょう。 時間などというものはない、あるのはたださまざまなより高い立体幾何学にもとづいてたがいに入れ子になった空間だけだ、そして生者と死者とは、そのときどきの思いのありようにしたがって、そこを出た…

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『歪み真珠』山尾悠子 ほか

歪み真珠作者: 山尾 悠子出版社/メーカー: 国書刊行会発売日: 2010/02/25メディア: 単行本 山尾悠子を読むのはこれで二冊目です。 以前に読んだ『ラピスラズリ』は小説世界を把握するのに時間がかかったけれど、最後におおっ! という情景にたどりつきます。 『歪み真珠は』15の掌篇を集めたもので、その中の「ドロテアの首と銀の皿」は『ラピスラズリ』の冬眠者に連なる話でした。 山尾悠子の作品は、言葉で組み上げた人工の美の世界だなあと思えます。強く吹きつける風や流れ去る雲、刻々と変化する野の景色も絵画の中に存在するようです。もちろん色彩や動きが感じられるわけですが、同時に静けさもあるのです。 会話が途切れた一瞬の静寂を「天使が通った」なんて言いますね。その感覚に近いです。 ときどき滲み出るユーモアはいいなあ。男前の聖アントワーヌがどんな誘惑を? とまわりが妄想を逞しゅうする気持ちはわからないでもないです。 ほかにはヴィクトル・ペレーヴィンの『宇宙飛行士オモン・ラー』がよかったので、未読だった『眠れ』と『虫の生活』も勢いで読みました。 『オモン・ラー』は、憧れていた宇宙飛行士になったオモンは月への飛行を命じられ、月面走行車に配属されるが…と言う話。ソ連という体制の不条理が背景にあるけれど、ばかげたことは別にソ連に限ったことではないし、そういう中での少年の成長小説として面白かったです。 『眠れ』は人間以外の存在の視点で日常を異化したような話が印象に…

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バルザックとコッパードを読了

小説を読む気にならなくて、新書をつまんだり日本の古典の再読などをしていました。少し気分が変わってきたので、短編集をぽつぽつと読んでいます。光文社の古典新訳文庫にはケチをつける人もいるけれど、気軽に手にとれるのはいいと思いますよ。 『グランド・ブルテーシュ奇譚』バルザック バルザックの長編をそのうち読むつもりです。その前に短編に挑戦。四つの短編とエッセイを一つ収録。 いいなあと思うのは表題作と「ファチーノ・カーネ」 「グランド・ブルテーシュ奇譚」は貴族の館で起きたある事件の話。ゴシック小説のような雰囲気があります。 「ファチーノ・カーネ」は盲目の老楽士の告白。黄金への欲望と憂愁に閉ざされた半生が語られ、幻想に迷いこみます。 余談ですが、うつらうつらしながら眺めていた年譜に、浮き名を流したご夫人がたの名前がずらっと出てきて、一気に目が覚めました。 『天来の美酒/消えちゃった』コッパード この人の短編はどこへ向かうのか読めないです。「消えちゃった」と「レイヴン牧師」の幕切れには、え? となります。 本全体の印象は、登場人物がやっている事や会話はどこか抜けたようなおかしみがあり、悲劇性を備え、場面描写はえらくリリカル。「去りし王国の姫君」と「天国の鐘を鳴らせ」は詩情が溢れんばかりです。 どちかというと「好き」に傾く作家。日本人は「泣ける」とか叙情的なのが好きだよね、なんて上から目線で言いながら、私も実のところリリカルなのに弱いことが判明しました。

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『冬物語』カーレン・ブリクセン

冬物語作者: カレン ブリクセン出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 1995/01メディア: 単行本 以前に読んだ『運命綺譚』にも通う、人の運命をめぐる物語。 『冬物語』はデンマークを舞台にした話が多いです。 人を殺してしまった少年水夫、普仏戦争を前にドイツで逮捕されたフランスの貴婦人、古のデンマーク王など。彼らが自分が自分であることを受け入れ運命を全うできるかどうか、そんな思想が話の底に共通して流れています。 物語の中に物語が配置され、人の夢とあこがれ、そして悲しみが、外側と内側の物語の間にこだましているように感じました。 自身を欺いたり運命から逃げ続ける人生は虚ろです。しかしたとえ向かう先が悲劇であっても、人が自分自身になり運命を待つ場面は、瞬間が無限に引き伸ばされ、不滅の輝きをもって描かれています。 話にぐっと入り込ませておいてふっと力を緩めるような緩急のつけかたや、物語の深度を自在にあやつるのが上手いんですよね。 森の中でのひそひそ話、凍りつく海峡の氷のうねり、デンマークの自然が物語内に息づいているのもいいです。 収録作品をメモ。 「少年水夫の物語」 「カーネーションをつけた青年」 「真珠」 「ゆるぎない奴隷所有者」 「エロイーズ」 「夢見る子」 「魚――古きデンマークより」 「アルクメネ」 「ペーターとローサ」 「嘆きの畑」 「心のためになる物語」

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十二国記と佐藤亜紀とモリミーと

流れに何の関連もないと思いつつ、読んだ作品と作家を無理やり並べてみました。雑感を簡単に書いておきます。 yom yom (ヨムヨム) 2009年 10月号 [雑誌]作者: 出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2009/09/26メディア: 雑誌 yomyomの12号はもちろん十二国記の新作が目的です。 事前に新潮社のサイトで告知があったので、『華胥の幽夢』収録の「帰山」を読んで気分を盛りあげました。 新作は柳国が舞台でタイトルは「落照の獄」 「帰山」で語られた柳国の状況を内側、つまり官吏の視点から描きます。司法がらみでタイムリーな話といえますかね。でもちゃんと「天」につながっていて、十二国記の世界観に組み込まれています。天綱に記された条理は絶対で、そのこと自体は是非もなく容認されていても、やはり人は悩むし揺れるのでありました。 今度はもう少し動きのある話が読みたいなー、と贅沢を言ってみます。というか本編はどうなるの? 激しく、速やかな死作者: 佐藤 亜紀出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2009/06メディア: 単行本 『激しく、速やかな死』佐藤亜紀 短編集です。 うー、これはヨーロッパの歴史と文化の知識がないとつらいです。サド侯爵ならメジャーだし、白檀の小箱の話のように、背景を知らなくても女の人の意地悪な言い回しを楽しめる話もあるんですけどね。 作者による解題がついてますけど、私の力不足ということで…。 これを隅まで理解できる人…

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『どぶどろ』半村良

どぶどろ (扶桑社文庫―昭和ミステリ秘宝)半村 良扶桑社 2001-12by G-Tools 表題作「どぶどろ」の主人公である平吉の心中を察すると、非常にやるせないです。ラスト近くで平吉がある人に向かって叫ぶ言葉は、平吉の言葉というよりも、ニヒリズムを打ち砕く、神の言葉であるように感じました。 あまり内容を詳しく紹介しないほうがいいかなと思い、いきなり感想を書いてみました。江戸の庶民の暮らしと、その喜び悲しみが胸に沁みます。 人から借りた本なんですけど、「ミステリーぽい時代小説。岡っ引きみたいな人が出てくるよ」と説明されました。 で、本の中で担ぎ売りのところてん屋だとか、夜鷹蕎麦が出てきます。 もうね、私の脳内では、その全てが同一人物の変装した岡っ引きという妄想が展開されてしょうがなかったです。ぜんぜん違うだろう。トンデモ時代劇なのか。多羅尾伴内なのか。

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