『夏への扉』ロバート・A・ハインライン

夏への扉 (ハヤカワ文庫 SF (345))ロバート・A・ハインライン早川書房 1979-05by G-Tools 恋人と友人に裏切られ、仕事も発明品も奪われて傷ついていた技術者のダニイは、裏切り者との紆余曲折の末、冷凍睡眠で30年後の2000年の世界で目覚めます。そこで彼は事の真相をつきとめようと動き始めるという話です。 読後感もよく、楽しく読めました。 お人よしでみぐるみ剥がされたダニイが、新規まき直しのために再び人を信じるなんていいではありませんか。人間の喜怒哀楽はいつの時代もそう変わらないものですね。 ただ後半の恋愛が男性のファンタジーになってしまっているのがなんだかなあ。恋愛対象が純粋であって欲しいという願望や神聖視はわからなくもないですけど。ダニイの(著者の?)女性認識もお寒いですし。 うーん、まあ1957年発表の作品だしなー。

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『回送電車』堀江敏幸、『猫にかまけて』町田康

もうすぐ京極堂シリーズの最新刊が出ますね。大極宮経由で京極夏彦の朗読付きの映像(MouRa)を観ました。声がすてきだ…。私のために『邪魅の雫』全文を朗読してもらいたいです。 あとは読了本を簡単にメモ。 堀江敏幸の『回送電車』は散文集です。回送電車がダイヤのすきまをすり抜けるように、エッセイや小説、批評のあいだを往き来するような文章がいいです。 回送といえば以前に仕事の帰りにバスで眠りこけ、回送中の暗い車内をよろよろ歩いて、運転手さんを非常に怯えさせたことがあります。背もたれの高い座席だったので、終点で気づかれなかったようです。幽霊じゃないのよー。 町田康の『猫にかまけて』は、猫たちとの暮らしを写真と文でつづっています。愛猫の行動観察が、いつのまにかマチダさんの自己言及になっていたりするのにちょっと笑う。猫の前では人間など卑小な存在なのですね。 猫のいる空間はいいなあ。

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『ノラや』内田百けん

ノラや―内田百けん集成〈9〉 ちくま文庫内田 百けん筑摩書房 2003-06by G-Tools 猫にまつわる話ばかり二十二編をあつめた本です。 中心となるのは飼い猫のノラとクルツの話。野良猫だったノラを百けん先生はとても可愛がりますが、ノラはある日いなくなってしまいます。その後の先生の嘆き悲しむ姿と、行方を捜す執念がすごいのですよ。 先生は「猫が特別好きなわけではない」と再三書いています。猫好きなのではなく、ともに過ごしたノラとクルツの二匹が、かけがえのないものなのだと。 でも晩年の作品に、寒風で門扉が軋む音が子猫の泣く声に聞こえてひやりとする、とも書いています。猫であればほおっておけないし、家に入れればまたノラのような苦労を繰り返すからなのですが、こういうところに、先生が生命に対して持つ、もの悲しい気持ちや優しさみたいなものを感じます。

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『魔法探偵』南條竹則

魔法探偵南條 竹則集英社 2004-12by G-Tools 吾輩は魔法探偵。魔法杖で失せ物を探してしんぜる。 ある日、大仕事が舞い込んできた!  思い出の大阪万博会場へ、美人秘書を連れて出張ぢゃ! という謳い文句のこの本、ジャンルはファンタジーになるのでしょうか? 主人公の「吾輩」の家は、かつてかなり裕福であった下町の商家で、両親とは早く死に別れ祖父母や大勢の使用人に囲まれて育った。 音楽と詩作に情熱を傾けたがそれ以外のことにはてんで関心がなく、会社づとめをすればたちまち首になり、祖父母が亡くなって後は債務を背負い、住み慣れた家からの立ち退きを余儀なくされる。 とまあ、要するに「吾輩」は詩人をきどった生活能力のないダメダメ人間で、現在は迷子の猫を探す猫探偵を生業にしています。 ある日謎の詩人クラブに迷いこみ、そこで魔法の杖を得て新たな探偵稼業を始めますが、この依頼仕事が読んでいて少々退屈なのが残念。しかしオチはどれもシュールです。 とぼけた味わいがあり、引用される古今東西の詩やシベリウスの音楽、昭和三十~四十年代の東京の風景や大阪万博の様子が、現代が舞台でありながらも懐かしさを感じさせます。全体を通して「記憶」がキーワードになっており、終盤の「記憶」とはそもそも何なのか? という問いは興味深い。

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