『イザベラ・バードの日本紀行』イザベラ・バード

1878年(明治11年)の日本を旅したイギリス人女性による旅行記です。 平凡社から出ている『日本奥地紀行』は、東北と北海道の旅を収録した普及版の翻訳。 講談社の『イザベラ・バードの日本紀行』は原典初版本の翻訳で、関西の旅も収録されています。 東北と北海道の旅は、従者と通訳を兼ねる伊藤と二人で東京から日光を経て新潟へ、東北の山間部を通過しながら青森、北海道へと渡ります。 蚊と蚤に悩み、山間部の農民の貧しく不潔な姿に驚き、木々が茂る山々の景色に感激するわけですが、偏見や好悪を表す辛辣な言葉があり、正直いい気持ちがしないところも多々あります。 イザベラ・バード個人の価値観や経験則から来るものだし、時代的な制約もあるので、そこもコミで読むべきなのでしょうけど。 とはいえ、実際に足を運んで人々の暮らしを見聞する彼女の意欲と、物事を注意深く観察する姿勢には敬意を払います。貧しく不潔な農民たちが田畑をきちんと手入れし、夜には手仕事をして経済的に自立し、子供を可愛がるところも見ています。 アイヌの描写も、風習、言語、宗教、村落による違いまでも詳しく観察し考察しています。 あとは、通訳の伊藤ウォッチャーになってしまいました。まだ18歳のおもしろい人物です。抜け目ない性格で、雇い主を操縦しようとする面もありながら、頼りになるし勉強家。西欧文化とキリスト教を至上とするイザベラと、伊藤の強烈な愛国心と外国人嫌いな面の対比は、日本人の外国文化に対するねじれた感情が垣間見える気がします。 関…

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『忘れられた日本人』宮本常一

忘れられた日本人 (岩波文庫)宮本 常一岩波書店 1984-01by G-Tools ちくま日本文学にも一部が収録されていて、興味をひかれました。 主に西日本の老人たちから聞き取った話をまとめています。調査をしたのは昭和の十~二十年代ぐらい。老人たちが生きてきた藩政時代から明治、大正にかけての社会を背景にした一庶民の姿が生き生きと浮かび上がります。 習俗の話ももちろん興味深いのですけど、歴史上の出来事を同時代に見聞きして語っているのが面白いです。 南河内の山村に住んでいた老人は、十二歳のときに山々がゆさぶられるような大きな音を聞きます。山に登った者によると、大阪の空に黒煙が上がっているのが見えたとか。そして大阪から戻ってきた者から鳥羽・伏見の戦いで徳川が負けて、大阪城の煙硝蔵が焼かれたらしいという話を聞きます。 ちっとも実感がわかない教科書の記述より、田舎の年寄りの聞いた噂話のほうが、出来事との距離が近くなるように感じました。 あと地方で独自に郷土の文化を研究している人たちがいますよね。著者と彼らとの交流は、話が弾んで楽しそうなわけです。同好の士です。そういうおじさまのネットワークがちょっと微笑ましかったりします。

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『宮本常一 ちくま日本文学』

宮本常一 [ちくま日本文学022] (ちくま日本文学 (022))宮本 常一筑摩書房 2008-08-06by G-Tools 民俗学者の宮本常一の本を初めて手にとってみました。 農村、漁村、離島を歩き、庶民の生活をつぶさに観察した様子は、旅日記や読み物としても面白いです。 自身の故郷である瀬戸内の島の生活誌では、波の音、食生活、生計の手段、人の行き来などが細やかに描かれます。五感を開いて物事に接している姿勢が、フィールドワークでも生かされていることがわかります。 米を背負って民家に宿泊し、人の懐に入って名もなき人たちの話に耳を傾ける。そのようにして女たちの世間の話や、夜這いなどの性に絡む話、『土佐源氏』のような乞食老人の生涯の話を引き出したのでしょう。 昔の農村て、貧しくて陰惨な風景のイメージがまずあるけれど、住民たちはそれなりに楽しいことを見出して暮らしていただろうと宮本常一は言っています。自身の経験や資質がそう言わせるのかな。おおらかな感じがしていいなあ、なんて思いました。

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『柳田国男の民俗学』福田アジオ

柳田国男の民俗学 (歴史文化セレクション)福田 アジオ吉川弘文館 2007-09by G-Tools 昔の日本の暮らしや民間伝承には興味があります。といってもそれに関する本をつまみ食いするぐらいで、民俗学の知識があるわけではありません。そんな程度の私が読むのにちょうどいい本でした。 柳田国男の生い立ちや思想を押さえながら、柳田民俗学の主な研究内容を概観し、矛盾点を指摘します。その上で個別要素を掘り下げるだけではなく、それらを結合して社会史の全体像を組み立てられるような方法を築くことが今後の民俗学の課題であると述べています。 本に引用されている柳田の説は、ちょろっと読んでも面白いのです。で、うっかり丸呑みしそうになるんですが、「蝸牛考」の変なところはわかりやすいですね。受け取り方によっては、歴史や文化は中央でしか生まれないことになってしまいます。 「日本」という単位の地理的条件だけで見ると、私なんか辺境に住んでいることになるけれど、北は北、南は南で人や物が行き来する文化圏があったでしょう。地域の歴史を編むなら周辺国も視野に入れないと辛いわなあ、などと呟いてしまうのでした。

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『遠野物語 付・遠野物語拾遺』柳田国男

遠野物語―付・遠野物語拾遺 (角川ソフィア文庫)柳田 国男角川書店 2004-05by G-Tools 言わずと知れた遠野物語。 岩手県遠野の出身である佐々木氏が語った民間伝承を、柳田国男がまとめたものです。河童や座敷童子、マヨヒガの話は有名ですね。他にも地名の由来や行事など、内容は多方面にわたります。 私事で恐縮ですが、東北に住む親戚がいます。二十年ぐらい前まではまだトイレが外にあったような山間部で、家には神道と仏教と土地の神様の三つを祭った、雛壇のような大きな祭壇がありました。そこの土地で昔あった事実として、人が山に入って数日戻らず、帰ったときには惚けたようになっていた、なんて話を聞きました。それこそ百年も前の話ではないですよ。 今の時代から考えると、狭い土地で鬱屈がたまり人の目から逃れたくなったとか、心の病なのかも。そういう精神状態で山の中にいれば、おかしなことが起こったりするだろうし、見たものを言葉にして形を与えて伝達すれば、怪異譚になっていくのかなー、なんて勝手に思ったりします。 『遠野物語』の短い話から垣間見える人々の暮らしって、そんなに遠いものではないような気がしました。

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『百鬼夜行抄 (16)』今市子

百鬼夜行抄16 [眠れぬ夜の奇妙な話コミックス] (眠れぬ夜の奇妙な話コミックス)今 市子朝日新聞出版 2007-11-07by G-Tools 相変わらずというか、懲りないというか、積極的に怪異にかかわる開さんが暴走してます。「闇の領域に手を出すな」という蝸牛との対立姿勢は変わらないんですね。でも手痛いしっぺ返しも受けたりして、親父さんのスタンスも受け入れられる日がくる…のでしょうかね、いつか。 最初の「羽擦れの島」で三郎さんの今後が決まります。私はあの箱庭のなかが少しずつ荒んでいく様子が、ことのほか胸に応えました。ええー、なんでだろ。心にすきま風が吹き抜けましたよ。 あと管狐がかわいい。

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