『ねむりねずみ』近藤史恵

ねむりねずみ (創元推理文庫)近藤 史恵東京創元社 2000-11by G-Tools 『二人道成寺』に続いて歌舞伎シリーズです。というかこちらが先ですね。ここから瀬川小菊と今泉文吾のコンビが始まります。 言葉を忘れていく症状に苦しむ女形役者・中村銀弥とその妻・一子。二ヶ月前に劇場内で起きた殺人事件。この二つの話に歌舞伎の演目が重なっていきます。 でねー、謎解きがこじつけめいているのが苦しかったですよ。あとはこのシリーズにもれなく登場する「お嬢様」に、読む人が我慢できるかどうかが評価の鍵になるかも。この本で言うと一子です。恋愛に頭が沸いてるお嬢さんを許せるかどうかです。私は『散りしかたみに』の虹子で免疫ができていたようで、なんとか大丈夫でした。 やっぱり話の終わりかたに長所があるかな。 人物に心理的な変化があってもスタートラインは変わらず、その先に何があっても自分で道を歩んでいくところには良さを感じます。

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『二人道成寺』近藤史恵

二人道成寺 (本格ミステリ・マスターズ)近藤 史恵文藝春秋 2004-03-24by G-Tools 探偵の今泉文吾が登場する歌舞伎シリーズの一冊。 女形役者である岩井芙蓉の妻・美咲は、三ヶ月前の自宅の火事による火傷と一酸化炭素中毒で、いまも昏睡状態です。火事の原因は不明。文吾は役者の中村国蔵から「火事には不審なところがある」と調査を依頼されます。しかし国蔵は、梨園では芙蓉と犬猿の仲と噂される人物でした。二人の役者の確執の裏には何があるのか? という話です。 物語と歌舞伎の演目を重ねあわせるこのシリーズ、今回は「摂州合邦辻」。義理の息子の俊徳丸に恋を仕掛ける玉手御前が主人公で、本の内容も愛憎劇です。さらっと読めるのですけど、心理的に追い込まれた人物たちの息苦しさがしっかりと感じられたのはよかった。同じシリーズの『散りしかたみに』と『桜姫』で私はごちゃごちゃ言ってますが、どれも話の落しどころはすごくいいと思うし、好きなんですよ。 あと瀬川小菊の師匠・菊花(六十代)の、柔らかいけれども存在感があるところに惹かれます。最近の傾向はオヤジスキーなのか。自分。

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『散りしかたみに』近藤史恵

散りしかたみに (角川文庫)近藤 史恵角川書店 2001-08by G-Tools 歌舞伎座での「本朝廿四孝」公演中、決まった場面で一枚の花びらが必ず舞う。出演している瀬川菊花は、弟子の小菊に今泉を連れてくるよう指示。誰が降らせる花なのかを探るうち、梨園で繰り広げられる恋と隠された事実が明らかになっていく。 探偵の今泉文吾と女形の瀬川小菊が登場するシリーズの一冊。後に出た『桜姫』を先に読んでいるのですが、演目と登場人物を織り合わせるような型は一緒です。結局この悲劇は今泉が関わらなくてもいずれ起こっただろうし、探偵がいてもいなくてもいいような状況なので彼の影は薄いです。でも『ガーデン』を読むと事情があるのですね。今泉と山本君の話もシリーズ中に出していくのでしょうか。それともこのまま? ゆっくりと崩壊していくような雰囲気はわりと好きです。 しかし好みの話をしてしまうと、虹子がイヤ。 精神面でも物質面でも人にぶら下がっていて、それでいて退廃的にも計算高くもなれない。その状態が単に幼くて傲慢なだけにしか見えないのです。やることがなくて退屈です、弄んだのです、罪なのです、罰なのです、と吐く自己への陶酔と憐憫の言葉に辟易しました。こういうグダグダしたのにイライラするので、へたに恋愛モノは読まないのです。傲慢さは誰でもあるし、恋愛なんざ思うようにならないもので言うのが野暮なのですけど、本音を言ってしまいました。すみません…。

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『桜姫』近藤史恵

桜姫 (文芸シリーズ)近藤 史恵角川書店 2002-01by G-Tools 歌舞伎役者の娘である笙子は、若手勉強会の舞台「桜姫東文章」に招待され、桜姫を演じた銀京と出会う。銀京は幼くして死んだ笙子の兄の音也とは友人で、その死に疑問をもっているという。実は笙子自身も疑いを持っていた。妾腹で兄の死後引き取られたはずの自分が、兄の首を締める夢を何度も見るのだ。自分が兄を殺したのではないか…。 どうやら探偵の今泉文吾と、歌舞伎の養成所出身の役者・瀬川小菊が登場するシリーズ中の一冊だったようです。知らないで読んでしまいました。 あらすじで挙げた笙子と銀京の抱く疑惑と恋愛、そして小菊側のもうひとつの事件である「伽羅先代萩」公演中の子役の死を追うストーリーです。歌舞伎はあまりわからないのですけど、梨園が舞台で私立探偵が登場する設定は魅力があります。柔らかさの中にぴしりと筋が通るような、役者の所作も清々しい。…のですが、全体的に少々弱いかなあと感じます。二つの演目の内容と登場人物たちの心理にシンクロがあるのでしょうけど、描写にもう一押し欲しい気がしました。「桜姫東文章」の話のキモが、私にはよくわからんのです。実際に芝居を知っている方は、そのあたりの想像力が働いてまた違うかもしれません。 話の着地点は良かった。

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