『渡りの足跡』梨木香歩

渡りの足跡作者: 梨木 香歩出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2010/04メディア: 単行本 北海道は屈斜路湖の風景を上空から見下ろし、女満別空港に降り立つところからエッセイが始まります。 知床やカムチャツカなどの渡り鳥の飛来地を巡り、今いる場所を離れて彼方へと渡る鳥たち、そして人間たちに思いを馳せます。 私はこの本に図説はいらない派。確かに渡りのルートを示した図や鳥の写真があれば一発です。でもでも肝心なのは想像することではないかしら。知りたければ地図を開けよ。三月末の知床の冴え冴えとした空気に身を浸しながら、オオワシの視点になってみよ。なんて思います。 主な鳥についての註がちゃんとあって、大きさなどの簡単な説明の他、著者の目を通した鳥の印象が付け加えてあります。ユーモアのある記述から鳥を想像し、改めて自分で調べる楽しみもありますよ。 いろんな場所に足を運び、多くの人に会い、様々な書籍を読んで、人々の歴史に一歩一歩近づいて思いをめぐらす。そんな著者の姿勢を感じながら読みたい本です。

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『シュリーマン旅行記 清国・日本』ハインリッヒ・シュリーマン

シュリーマン旅行記清国・日本 (講談社学術文庫 (1325))作者: H.シュリーマン出版社/メーカー: 講談社発売日: 1998/04メディア: 文庫 トロイア遺跡を発掘する(『古代への情熱』シュリーマン)数年前、シュリーマンは世界をめぐり日本にも立ち寄っています。本書は1865年に清の時代の中国と幕末の日本を訪れた時の旅行記です。 中国では気分を害することが多かったのか、物言いが厳しいです。そのへんを割り引いて読んでも、北京で塔の上から眺めた宮殿は、手入れが行き届かず朽ちるままになっていて、衰退の一途をたどっていた様子がうかがえます。 どうしても行きたかった万里の長城では、古代の遺物と岩山が連なる景色に感動し、ふたつで25キロの重さがある長城のレンガを背負って帰るのでした。 日本に対してはかなり好意的。清潔で小さな庭のある住まい、見事な細工物、清廉な役人などが好感度を上げたようです。 物の値段や寸法を細かく記録するきっちりしたところとか、望むことを実現する行動力とか、シュリーマンの性格が出てるなあなんて思いました。 多少の誤解や思いこみもあるんですけど、この人は物事を相対的に見るよう意識してます。所変われば品変わるで、どこか一点を基準に判断しないようにしてるみたいです。 あとは外国人の立ち入りが制限されていた江戸に、普通の旅行者がよく入れたなと。外国人が襲撃されるような物騒なご時勢で、滞在したアメリカの公使館も凄い警備なんですよね。 国内から見た幕末って、坂…

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チャペックの旅行記からチェコスロヴァキアとスペインを

チェコスロヴァキアめぐり―カレル・チャペック旅行記コレクション (ちくま文庫)作者: カレル チャペック出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 2007/02メディア: 文庫 カレル・チャペックの生まれた地であるチェコのマレー・スヴァトニョヴィツェ周辺の様子、プラハの都市事情、スロヴァキアの風景を描きます。 北欧やスペインと違い、チェコスロヴァキアとなると、私の中にその地に関する教養も情報の蓄積も少ないことを実感します。彼の故郷の話に出てくるカタカナの名詞には、まるで馴染みがありません。わからないなりにも、山里の情景と、かの地への愛情はなんとなく伝わってきます。 現在チェコとスロヴァキアは国が分かれていますけど、チャペックもスロヴァキアは「本質的に牧畜地帯」と見ていて、チェコとは異質な地という印象を持っています。 プラハめぐりの章は新聞か何かのコラムなのかな。 古い町並み、成長する都市、掘っ立て小屋が並ぶ貧しい人々の生活の様子を集積すると、ひとつの社会批評として成立するのはさすが。 スペイン旅行記―カレル・チャペック旅行記コレクション (ちくま文庫)作者: カレル チャペック出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 2007/03メディア: 文庫 こちらは1929年のスペイン旅行です。 ドイツ、ベルギー、フランスと、列車の窓を風景が流れて行きます。 そしてそして褐色の土地、ピレネーの南の異郷、アフリカ。 チャペックの第一印象では、スペインを別の大陸のよ…

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『イザベラ・バードの日本紀行』イザベラ・バード

1878年(明治11年)の日本を旅したイギリス人女性による旅行記です。 平凡社から出ている『日本奥地紀行』は、東北と北海道の旅を収録した普及版の翻訳。 講談社の『イザベラ・バードの日本紀行』は原典初版本の翻訳で、関西の旅も収録されています。 東北と北海道の旅は、従者と通訳を兼ねる伊藤と二人で東京から日光を経て新潟へ、東北の山間部を通過しながら青森、北海道へと渡ります。 蚊と蚤に悩み、山間部の農民の貧しく不潔な姿に驚き、木々が茂る山々の景色に感激するわけですが、偏見や好悪を表す辛辣な言葉があり、正直いい気持ちがしないところも多々あります。 イザベラ・バード個人の価値観や経験則から来るものだし、時代的な制約もあるので、そこもコミで読むべきなのでしょうけど。 とはいえ、実際に足を運んで人々の暮らしを見聞する彼女の意欲と、物事を注意深く観察する姿勢には敬意を払います。貧しく不潔な農民たちが田畑をきちんと手入れし、夜には手仕事をして経済的に自立し、子供を可愛がるところも見ています。 アイヌの描写も、風習、言語、宗教、村落による違いまでも詳しく観察し考察しています。 あとは、通訳の伊藤ウォッチャーになってしまいました。まだ18歳のおもしろい人物です。抜け目ない性格で、雇い主を操縦しようとする面もありながら、頼りになるし勉強家。西欧文化とキリスト教を至上とするイザベラと、伊藤の強烈な愛国心と外国人嫌いな面の対比は、日本人の外国文化に対するねじれた感情が垣間見える気がします。 関…

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『千島紀行』ステン・ベルクマン

千島紀行 (朝日文庫)作者: ステン ベルクマン出版社/メーカー: 朝日新聞発売日: 1992/08メディア: 文庫 スウェーデンの動物学者で探検家のステン・ベルクマンによる、千島列島の探検記です。 1929~1930年にかけての一冬二夏を、根室半島からカムチャツカ半島の間にちらばる島々で過ごします。 千島列島は北方領土も含めて、日本とロシアの間で領有権問題がありますが、実際はどんなところなのか知らなかったりします。 岩の多い岸辺に火山がそそり立つ火山列島であり、島によって異なる植生のなかに獣も鳥も魚も驚くほどいます。寒い土地なのに本州と同じような日本家屋に暮らす日本人や、色丹島に移住させられた千島アイヌの人たちの姿もあって、80年前の千島の様子がよく伝わってきます。 地勢や生物相を記録しながら、人々の営みにもあたたかい眼差しが注がれていて、一見軽やかな紀行文なんですが、探検家だけあって、けっこう無茶なこともしてます。 まだ雪が残る季節に熊の冬眠穴で一夜を明かしたり、初めての潜水で鼻血を出すほど潜ったり。 原始的な世界に身を浸す喜びと、冷静な観察眼が同居したベルクマン氏の文章の魅力は大きいと思います。

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『北欧の旅 カレル・チャペック旅行記コレクション』

北欧の旅―カレル・チャペック旅行記コレクション (ちくま文庫)Karel Capek 飯島 周 筑摩書房 2009-01-07by G-Tools 1936年の夏。カレル・チャペックは妻のオルガとその兄とともに、デンマーク、スウェーデン、ノルウェーの北欧の3カ国を巡る旅をします。 豊かな緑の大地に牝牛の群れが草を食むデンマーク。王宮と自転車乗りの街コペンハーゲンを後にして、花崗岩の国スウェーデンへ。水の都ストックホルム、古の王の墳墓があるガムラ・ウプサラを訪ね、お次はノルウェー。オスロからベルゲン鉄道に乗り、ベルゲンからは船でフィヨルドを北上してノールカップへ向かい、再びスウェーデンに入って南下するというコースです。 土地によって変化する植生、家々の形、人々の気質を見つめて、時にロマンチックに、時にユーモアたっぷりに綴っています。 多才な人で園芸オタでもあるので、植物にもいちいち詳しいです。 船に同乗したアメリカの宗教団体の騒々しさと、笑顔の押し売りを皮肉を込めて描いているのはご愛嬌。全体主義と闘う男は、押し付けがましい思想や集団の圧力が本当に嫌いなのですね。 そんな彼を独特の時間と空間認識に誘ったのは白夜でした。朝と夕方が連続するような淡い光の中で、水面に周囲の景色が映り、上下が失われ、無限と非現実の海に漂う…。詩的でちょっと不安でいい場面です。 イラストもふんだんに載っていて嬉しい。丘や谷に点在する木造の小屋、フィヨルドの入り組んだ海辺に建つ漁師の苫屋や小さな塔の絵…

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