過去を振り返る

あけましておめでとうございます。 カテゴリが1年飛んでいるような気がしますが、昨年の読書を振り返ることにしましょう。 メモをめくると山田稔、多和田葉子に惹かれ、安部公房の再読を始めています。 山田稔の「どこにも力みが感ぜられず、読むうちにこちらの力みも揉みしだかれる」と小沼丹の文章を評しているのに触発されて未知谷の『小沼丹全集』を読了。 補巻を入れて全五巻。大寺さんものと随筆が特に好きです。追憶に追憶が重なって、時系列を無視して記憶のなかを漂ったり、庭の木や小鳥、知人についての話など、なにげない短い散文に心がほぐれます。 翻訳物ではメルヴィル『白鯨』が叙事詩風といいますか神話っぽくて楽しめました。 そして年末年始に読んだばかりのナボコフ『ロシア文学講義』と『ヨーロッパ文学講義』が面白いです。ナボコフが小説のどこに重きを置くのかがびしびしと伝わってきます。細部と構造、文体について熱く語り、トルストイを絶賛してドストエフスキーを否定するナボコフですが、彼の評価には明確な基準があるから偏りがあっても面白いです。 『ヨーロッパ文学講義』は今月河出文庫で『ナボコフの文学講義』上下巻として出ます。 2012年のベストはなんといってもゼーバルト『アウステルリッツ』でしょう。 時間などというものはない、あるのはたださまざまなより高い立体幾何学にもとづいてたがいに入れ子になった空間だけだ、そして生者と死者とは、そのときどきの思いのありようにしたがって、そこを出た…

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保坂和志で頭をもみほぐす

こうやって本のメモを残しておくと、あとで思い出せていいのですが、書くための読書みたいになっていると感じるときもあります。 そんな硬直した頭をもみほぐそうと、保坂和志の『小説の自由』を読んだら余計に頭がもやもやしました。 でもこれは燃料が投下されたもやもやで、思考を続けるもやもやです。 簡単にわかった気分になったり、難癖つけるのではなく、好きで読んでいるのだから、その小説世界に近づきたいし、今いる場所からどこかへ連れていかれたいと思います。 そのための方法や気づきが、うねうねした文章から時おり立ち上がってきます。 いま『小説の誕生』を読み始めたんですけど、なんか引用が長くないですか? まあいいや。 『小説、世界の奏でる音楽』まで続けて読めるかな…。 小説の自由作者: 保坂 和志出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2005/06/29メディア: 単行本 小説の誕生作者: 保坂 和志出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2006/09/28メディア: 単行本 小説、世界の奏でる音楽作者: 保坂 和志出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2008/09メディア: 単行本

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『本の本』斎藤美奈子

本の本―書評集1994-2007斎藤 美奈子筑摩書房 2008-03by G-Tools 1994~2007年までの斎藤美奈子の書評集です。 700ページ超。厚さ5センチ。短い書評の集積だし、わりとすぐ読めるかなと高を括っていたのですが、読んでも読んでも終わらない無間地獄状態でございました。いっぺんに読もうとせずに、気が向いた時にちょっとずつ読むのがおすすめ。 好きなところから読めるように、構成も単に年代順ではなく、小説と随筆の本、文芸評論と日本語の本、本のある生活、社会評論と歴史の本、文化と趣味の本のジャンル別になっていて、巻末に索引もついてます。 斎藤美奈子の書評は、ご自身が「ええっ!」と思ったことを鋭くつっこむのが芸になっていますよね。小説の項目を眺めると、私の読書傾向とはタイプが少し違うので、本選びの参考にはならないけれど、書いていることが純粋に面白くて好きです。 小説以外だと、動物学や生き物の図鑑を取り上げているのは嬉しい。 私の鉢植えの写真がおしゃれじゃないのは、植物をインテリアだとは思わずに、図鑑ちっくな視点で見ているからかも? なんてことをふと思いました。 うん、まあ、センスがないだけなんだろうけど。

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『百年の誤読 海外文学篇』岡野宏文 豊崎由美

百年の誤読 海外文学編岡野 宏文 豊崎 由美 アスペクト 2008-03-04by G-Tools 二十世紀の海外文学の名作、百冊を評します。 というか本読み同士が感想を持ち寄って好き勝手に喋っているので、肩の凝らない楽しい読み物という感じです。 絶賛したり貶したり、極端なところもありますが、これはこれで面白いです。本を選ぶのって、権威やランキングよりも、読書傾向が近かったり、反応するツボが一緒だったりする人の個人的な評価のほうが、私は参考になるんですよね。 Web上に作品を腐した感想なんか出すな、という人もいるけれど、感情的にならずに、ここがこうだから自分にとっては面白くなかった、という情報なら、その人の好みや価値判断を知る材料になるので、かえっていいと思うのですけど。例えばラブロマンスやホームドラマが好きな人が薦める本は、私には合わない可能性が高い、などと参考にできるのです。逆もしかり。 最近海外ものを読む機会が増えているけれど、百冊のうち読んだことがあるのは十数冊しかありませんでした。世の中には星の数ほど本があって、その全てを読むことはできないんだよなあ、などとため息をつきつつ、お二人が本を肴にわいわいやっているのを見ていると、私も読むぞーという意欲が、もりもり湧いてくるのでありました。

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『男女という制度』斎藤美奈子 編

男女という制度 (21世紀文学の創造)斎藤 美奈子 岩波書店 2001-11by G-Tools ゴリゴリなイメージのあるジェンダー批評を、一般的な問題として共有することを目指した論評集です。 執筆は編者の斎藤美奈子のほか、川上弘美、大塚ひかり、佐々木由香、藤野千夜、小倉千加子、小野俊太郎、横川寿美子、ひこ・田中、金井恵子。 文学における美醜の歴史や、物語の中の男女の姿など、興味をそらさずどんどん読み進められます。 なかでも、横川寿美子の少女小説の分析と、ひこ・田中の男の子の物語の論考は、男・女という枠組みの現実の今を照らしていて、あわせて読むと面白いです。(2001年に出た本なので、それから数年たった今の状況は少し変化しているかも) そんな青少年への教材として、「老い」と「性」をセットにしてみようという金井恵子の提言には目を見張ります。「性」を「産む性」に押し込めて、そこから逸脱するものを非行や老醜としてタブー視してきた、という指摘には、気づかされることが多かったです。 こういう本こそ文庫(今なら新書かな)なんかでもっと気軽に読めるといいのにね。

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『戦下のレシピ』『それってどうなの主義』斎藤美奈子

『戦下のレシピ』斎藤美奈子 戦前から戦中の食生活の変遷を、当時の婦人雑誌に掲載された料理記事を参照しながら追っていく本です。 多量の米(含む雑穀)に少しのおかず。それが基本だった庶民の食生活が、大正期以降、日本人の体位向上をはかるべく西洋式の栄養学がとりいれられて変わっていきます。 婦人雑誌が広めたのは二つの概念です。ひとつは前述の「栄養学」、もうひとつは「家庭料理イデオロギー」です。手作りの料理は母の愛情のあかしという、いわゆる手作り神話ですね。 ものがなくなった戦中にも、やけに手間がかかったあやしげなレシピが登場するのは、そんな背景があるのかと妙に納得します。 飢えて植物の根まで掘って食べた、なんて話を一般的に聞いたりしますけど、もっと具体的に、配給される物の量が減り、品質も劣悪になり、家畜の餌にしかならないような生大豆粉や魚粉を使ったり、どんぐりを利用するに至る経緯を見せられると、「食糧がなくなることが戦争なのだ」という斎藤美奈子の言葉が胸に突き刺さってきます。 『それってどうなの主義』斎藤美奈子 こちらはあちこちに掲載されたエッセイなどをまとめたものです。 朝日新聞の迷走ぶりや、メディアの中にしかないバーチャルな日本語(吹き替えや翻訳で登場する「~だわ」「~てよ」などの、今で言う「おねえ言葉」)へのつっこみが楽しいです。 でもこの人は時事問題より文芸関係のほうが面白いし、ひとつのテーマで一冊になった本のほうがインパクトがあるかなと思います。

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