『高慢と偏見』ジェイン・オースティン

田舎の地主の次女エリザベスと、家柄も財産も容姿も申し分ないダーシー氏が、誤解や格の違いに基づく偏見のためにいろいろありながらも結ばれるという恋愛小説です。 お堅いタイトルだし恋愛小説だし、と今まで読まなくて損した気分です。 財産があって働かなくても食べていけるジェントリー階級でも、さらに格差があります。 あちらの家が上だの、そちらの家が下だのと人が判断する基準を事細かに描いているのがとりわけ面白かったです。 年収がいくら、身分の低い親戚がいる、そして家族や友人など個人の振る舞いのひとつひとつが、エリザベスとダーシー氏の関係に深く影響を及ぼします。 娘たちをいい家に嫁がせるのに血道を上げる母親のベネット夫人もすごいけれど、父親のベネット氏の強烈な皮肉が一番好きです。 くどくどしいコリンズ氏の手紙に対して、筆不精なベネットパパの手紙は、簡潔かつ皮肉を込めた言葉で核心をついていて笑えます。 「高慢と追従と、尊大と卑下が混ざりあった奇妙奇天烈な人間」と描写されているコリンズ氏と、ベネット氏の往復書簡集があったら読みたいと思ってしまいました。 そういえば上巻ラストのダーシー氏の手紙の場面は、非常に盛り上がりますね。そして下巻に続く…! なんてところがニクいです。 高慢と偏見 上 ちくま文庫 お 42-1作者: ジェイン オースティン出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 2003/08メディア: 文庫 高慢と偏見 下 ちくま文庫 お 42-2作者: ジェ…

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十二国記と佐藤亜紀とモリミーと

流れに何の関連もないと思いつつ、読んだ作品と作家を無理やり並べてみました。雑感を簡単に書いておきます。 yom yom (ヨムヨム) 2009年 10月号 [雑誌]作者: 出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2009/09/26メディア: 雑誌 yomyomの12号はもちろん十二国記の新作が目的です。 事前に新潮社のサイトで告知があったので、『華胥の幽夢』収録の「帰山」を読んで気分を盛りあげました。 新作は柳国が舞台でタイトルは「落照の獄」 「帰山」で語られた柳国の状況を内側、つまり官吏の視点から描きます。司法がらみでタイムリーな話といえますかね。でもちゃんと「天」につながっていて、十二国記の世界観に組み込まれています。天綱に記された条理は絶対で、そのこと自体は是非もなく容認されていても、やはり人は悩むし揺れるのでありました。 今度はもう少し動きのある話が読みたいなー、と贅沢を言ってみます。というか本編はどうなるの? 激しく、速やかな死作者: 佐藤 亜紀出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2009/06メディア: 単行本 『激しく、速やかな死』佐藤亜紀 短編集です。 うー、これはヨーロッパの歴史と文化の知識がないとつらいです。サド侯爵ならメジャーだし、白檀の小箱の話のように、背景を知らなくても女の人の意地悪な言い回しを楽しめる話もあるんですけどね。 作者による解題がついてますけど、私の力不足ということで…。 これを隅まで理解できる人…

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デュラスとサガンで小説三本立て

太平洋の防波堤/愛人 ラマン/悲しみよ こんにちは (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-4)作者: フランソワーズ・サガン出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 2008/03/11メディア: ハードカバー 池澤夏樹個人編集による世界文学全集の一冊。 フランス人女性作家の三つの作品を続けて読んだわけですが、なんだか疲れました。 マルグリット・デュラスが全然進まなかったです。 『太平洋の防波堤』も『愛人 ラマン』もフランス領インドシナが舞台。入植した貧しいフランス人一家の娘の性と愛が語られています。読み進むのに時間がかかったからといって面白くないわけではないです。細部に、おっ? と思うところがたくさんありました。 少女を主体とした性愛のとらえ方、描き方は冷徹。 『太平洋の防波堤』で少女は男の欲望をきっかけに、他者から見られること、そうすることによって自分は世間に乗り出してゆくことになるのだと感じます。逡巡し、まさに自身の生身を世間に(その男に)さらけだそうとしたとき、男は蓄音機をあげるからドアを開けろと言うのです。物質(富)を介在させるのです。 『愛人』になると少女は男に心を動かさないようにします。他の女と同じように接することを男に要求するのです。 デュラスの少女時代の体験が小説のおおもとにあるみたいですけど、同じようで微妙に違いますね。 『太平洋~』に比べて『愛人』は簡潔で文章も流麗になります。でも省略してあって分りにくいエピソードを『太平洋~』から想像して補え…

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あけましておめでとうございます

また新しい年がやってまいりました。 今年ももりもりと読書をして、ステキな本にめぐり会いたいものです。 昨年は武田百合子にしびれました。翻訳物や名作もぽつぽつと読んで楽しみましたが、今年もこの傾向は続きそうです。名作って、お宝の山なのですよね。 年末から正月にかけて読んだ本は、 『テンペスト』池上永一 琉球王朝を舞台に、一人の女性が性を偽り宦官として王府に入り出世していくという話です。 うーむ、池上永一なので普通の歴史小説ではないだろうと思ってはいましたが、微妙だなー。薩摩と清国に挟まれた琉球王朝の話はいいとして、ヒロインの話が…。 ヒロインを宦官に仕立て、一人の人物の内面に男性性と女性性を二極化して取り込んでいるとはいえ、弱味を握られるとすぐ泣いて弱腰になるのはどうなのよ。徐丁垓に関しては、おっさん向けのエロ小説なのかと思いました。 話の勢いはありますけど、どうかなあ、ちょっとつらいなあ。 『存在の耐えられない軽さ』ミラン・クンデラ 男と女のごたごたが延々と書いてあるのかと思い引き気味だったのですが、だんだん面白くなります。人生の一回性、人物の行為をめぐる解釈などの様々な論考が積み重なり、溶け合って、もの悲しくも美しいラストを迎えるのでありました。

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『アンナ・カレーニナ(4)』トルストイ

アンナ・カレーニナ〈4〉 (光文社古典新訳文庫)望月 哲男 光文社 2008-11-11by G-Tools 『アンナ・カレーニナ(1)(2)』『アンナ・カレーニナ(3)』の続きです。 全4巻、読み終わりました。 アンナとリョーヴィンは、この巻で初めて対面するんですね。すごく印象に残る場面でした。 『アンナ・カレーニナ』には二組の恋愛の行方を追う他にも、読み所がたくさんあります。 舞踏会や競馬などの上流階級のイベントの空気。登場人物の性格や立場を掘り下げたり、解説にあるように宗教なり経済(懐具合)なりのキーワードで場面を拾ってみるのも面白そうです。 思うにアンナって、結婚生活や社交界を向こうに回し、弱い立場に追い込まれながら純粋な愛に生きようとした悲劇のヒロインというわけでもないですね。自分の気持ちに正直でありたいというのはあっただろうけど、欲望にも正直だし、計算高いところもあります。 リョーヴィンも同じく気持ちに正直ですが、こちらは物事を頭で理解するというより、心と体を使ってのみこもうとします。くよくよくよくよ物を考え、他人の干渉にはカッとしたりむっとしたり、内面は忙しい人です。 彼は「信仰」の問題を胸の奥に抱えています。第8部でリョーヴィンの考えることや道徳観の全てに共感するということはないけれど、最後に彼が神と信仰の認識に至る場面には、きらっと光るものがありました。 よかったですトルストイ。他にも読んでみるかな。

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