『とりかへばや、男と女』河合隼雄

とりかへばや、男と女 河合隼雄はユング派精神分析家の資格をもつ臨床心理学者で、この人なりの物語の読み解き方が面白いのです。本書は男女の境界を超える心の謎にせまっていきますが、ここでは王朝物語の『とりかへばや』に関する部分だけ触れます。 まず国文学のなかで『とりかへばや』の評価が低いことへの本質をついた発言として、中村真一郎の意見を引用しています。 倫理性の欠如を憤慨してもはじまらない。王朝末期の貴族社会では、恋は倫理的な規制を受けるものではなく、むしろ美的規制をうけるものであった。王朝物語のなかに、故意に作者の倫理的意見を発見しようとするのは、近代的さかしらである。 これは私もやってしまいますね。この物語が現代まで伝えられてきたことには意義があるわけで、現在の評価が変態だなんだと低いのは、国文学の大家・藤岡作太郎の著作『国文学全史―平安朝篇』での評言(大正十二年)によるらしいです。大先生が「醜穢だ、不道徳だ」と決め付けた事によって、多くの国文学専攻者がそれを「研究」するのを思いとどまってしまったわけですね。 『とりかへばや』は作者の性別についても諸説あって、著者と吉本隆明の対談でも意見が喰い違っていたそうです。吉本隆明は「作者は男性で宰相中将が主人公」と考え、河合隼雄は「作者は女性で中納言(女性)が主人公」と考えていました。その後この問題を考え続けた著者は、現代的な小説として主人公を設定するとそのようにも読めるが、当時の「物語」は多分に重層的な、あるいは、多中心的な構造をそな…

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『笑いの力』 河合隼雄 養老孟司 筒井康隆

笑いの力河合 隼雄岩波書店 2005-03by G-Tools 2004年11月に小樽で開かれた「絵本・児童文化研究センター」主催のシンポジウム「笑い」の書籍化です。 お三方の講演と、三林京子を加えたシンポジウムを収録。 以下内容紹介ですが、無駄に長いです。

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『源氏物語と日本人』河合隼雄

源氏物語と日本人―紫マンダラ (講談社プラスアルファ文庫)河合 隼雄講談社 2003-10by G-Tools 臨床心理学者の河合隼雄が、独自の見地から『源氏物語』の全体にわたる構図を明らかにしていきます。 紫式部が自分の内面世界に住む多様で変化に富む女性の群像を見出した。その「世界」を記述するにあたって、彼女自身を中心とするのではなく、一人の男性を中心とするほうが適切に描ける、そう感じて光源氏が生み出された。 しかし男性に依ってその存在のあり方を規程するのではなく、女性が個としての存在をそのままに感じ取る必要性を感じ、新たな物語を書き起こす事が必要になった。それが「宇治十帖」である。 紫式部が男と女の新しいあり方を描きながら、個としての女性像<浮船>に到達していくさまを、河合隼雄があらゆる角度から検証します。 「宇治十帖」の著者は紫式部ではないという説もありますが、男性原理に基づく「個」ではなく、紫式部が女性としての「個」である自分の物語をつくりだしたと読み解く事によって、『源氏物語』全てに一貫性が出てくるという主張は説得力があります。 いろいろ女性たちも分析していて面白いのですが、河合隼雄も男性なので、男性を分析すると筆が冴えますね。 ぐじぐじと後悔するする事の多い<薫>を「思慮深そうに見えて、ほんとうは深くないのである」と、ばっさりです。 他にも面白いアプローチがたくさんあって、読みごたえがありました。

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