『儒林外史』呉敬梓

中国古典文学大系 (43) 儒林外史作者: 呉 敬梓出版社/メーカー: 平凡社発売日: 1968/10メディア: 単行本 科挙にふりまわされる人々を皮肉った章回小説です。 「儒」とは学ぶ者を指すそうな。具体的には、科挙に合格すれば高位高官の地位や富が得られるので、そのために学ぶ人を指します。 科挙の試験に必要なのは、経書の知識と八股文を作成する能力で、一般的な教養とは無縁なものです。厳しい競争と偏った学問で歪んだ人物がたくさん出てきます。事大主義の俗物、名士を気取って文無しになる者。でもお人よしの馬二先生なんかには「幸あれ」という気分にもなります。 回ごとに登場人物と話がつながっていく形式で、知識階級を点描してるのかと思いきや、いつのまにか何十年も時が流れ時代が変わっていきます。最終回には名士たちは姿を消し、書や音楽、詩をたしなむ庶民ばかりが描かれています。こういう時代の遠近感が印象に残りました。 知識階級、いわゆる読書人の類型が並べられた地味な話ではあるけれど、皮肉にふふっと笑ったり、同時に描き出される風景風俗庶民の姿に、当時の社会の様子が垣間見えたりします。 ちなみに借りてきた平凡社の古い全集の翻訳は読みやすかったです。

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『アルゴナウティカ』アポロニオス

アルゴナウティカ―アルゴ船物語 (講談社文芸文庫)作者: アポロニオス出版社/メーカー: 講談社発売日: 1997/08メディア: 文庫 イオルコスの英雄イアソンは、王ペリアスに命じられ、黒海の東の果てのコルキスにある金羊毛を求めて、ギリシア中の勇士たちと共にアルゴー船に乗り航海をします。 トロイア戦争よりも前の時代の話で、アルゴー船の伝承自体もホメロスの叙事詩より古いらしいです。 この『アルゴナウティカ』は紀元前3世紀ごろの詩人アポロニオスによる叙事詩。『オデュッセイア』のような凝った構成ではなく、話は一本道です。航海の道筋にある地の歴史や、土地にちなんだ神話のエピソードが細かく語られるところは、なんとなく観光ガイドみたいです(笑) まだ子供のアキレウスがちらりと出てきたり、『オデュッセイア』でお馴染みの海の難所、セイレンの歌声だとか、カリュブディスとスキュラの岩の場面もあります。そういう他の叙事詩との関連が楽しい。 イアソンは身体も脳みそもマッチョな英雄とは少し違うし、物語全般に人物の感情表現はわりとおとなしいです。そんな中で第三歌のメデイアが突出しています。イアソンへの恋心から生まれる葛藤と、自分の運命におののく姿が劇的です。後日譚でも魔女的な役割をふられているメディアが気になります。

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『カレワラ物語』キルスティ・マキネン

カレワラ物語―フィンランドの国民叙事詩作者: キルスティ マキネン出版社/メーカー: 春風社発売日: 2005/05メディア: 単行本 カレワラはフィンランドの叙事詩です。 解説によるとフィンランド東部とロシア北西部にまたがるカレリア地方に伝わる口承詩に基づいた文学作品だそうで、19世紀にフィンランドの青年医務官エリアス・ロンロートによって収集され、編集されたそうな。 本書は簡易版で、お話として読むには分かりやすいです。 世界の創造にはじまり、生まれたときから年寄りで知恵があり呪術に長けたヴァイナモイネン、凄腕の鍛冶屋イルマリネン、男前で血気盛んだけどちょっと軽薄なレンミンカイネンらが活躍します。 嫁取り。幸運も富も権力も、願うものを全て手に入れることができる奇跡の物体サンポを巡る争いなどなど。 人物のキャラも立っているし、森や湖、馬に引かせたソリやサウナといったフィンランドらしい描写があって楽しいです。 愛する美しい嫁を失ったイルマリネンが、寂しさのあまり金と銀から黄金の乙女をつくる話がすごくないですか? 嫁ロボかと思いきや、いわゆる竹夫人です。添い寝です。でもそこは厳寒の地フィンランド。金属だから冷たくって寝られないのです。これが暖かいギリシアとかローマの話だったら、ひんやりして気持ちいいってことになるのでしょうか。私は何を言ってるのでしょうか。 ヨーロッパだとどうしてもキリスト教の影響があるのでしょうが、最後の話があからさまなのは何なのでしょう。教会がらみでつ…

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『トロイア戦記』クイントゥス

トロイア戦記 (講談社学術文庫)松田 治 講談社 2000-09by G-Tools 『イリアス』で語られるのは、アキレウスに討たれたヘクトルの葬儀まで。 三世紀ごろのギリシア詩人クイントゥスによる『トロイア戦記』は、その後からトロイア崩壊までが描かれます。アキレウスやパリスの最期、木馬作戦などを読むことができます。 木馬作戦の場面は非常に絵になりますね。 災いの木馬を町に曳くことで破滅に近づくトロイアの人々、虚しく響くカサンドラの予言、それを天上から見てあざ笑うヘラとアテネ。←思えばギリシア方についてる神は強そうです。いわゆるパリスの審判でこの人たちを敵に回したパリスは勇者です。誰を選んでも地獄なんでしょうけど。 個人的にはピロクテーテースの過酷な体験に笑いと涙を誘われます。毒蛇に噛まれた傷口が臭くて孤島に十年間置き去りにされるのです。オデュッセウスに。ひどい。 訳文は雰囲気よりもわかりやすさ優先という感じです。 ただ会話文で「おのおのがた」とか「~でござる」はどうでしょう。 私も「わかりもうした」と答えたくなりました(笑)

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『イリアス』『オデュッセイアー』ホメロス

あらすじは知っているけれど、一度ちゃんと読んでみるかなというわけで、ホメロスの叙事詩『イリアス』と『オデュッセイアー』です。 松平千秋翻訳の『イリアス』、呉茂一翻訳の『オデュッセイアー』という変則的な読書になってしまいました。 松平訳は散文、呉訳は少々意味のとりにくい部分もありますが、もとの韻文の雰囲気を伝えるようなリズムがあります。 叙事詩はもともと口承のものだからなのか、枕詞や定型句、特に『イリアス』に顕著な長い比喩が多くて、冗長に感じられなくもないです。 でも神も人も個性が強く、ええっ! と思うような極端なエピソード満載で笑えたりします。 『イリアス』のアガメムノンは最初の二ページで性格が悪いなこりゃと感じるし、『オデュッセイアー』の詐謀の人オデュッセウスは、作り話ばっかりしています。キュクロプスに襲われたり、魔女や女神に無理やり引き止められたり、冥界に出向いたりといった漂流譚だって、キルケーでもカリュプソーでもいいけれど、本当は十年間女のところでよろしくやっていたのを隠すための作り話ではないの? なんて疑いたくもなります。なにせ老いた親父さんをも作り話で試す人なので。 ギリシア神話がらみの物語って、この人あの人あの神この神、あの出来事があってこの出来事につながるというように、新しい話が派生し増殖してますよね。すごい因果ロマンだなー、なんて思いました。 オデュッセイアー〈上〉 (1971年) (岩波文庫) オデュッセイアー〈下〉 (1972年)…

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『ガリア戦記』ユリウス・カエサル

<新訳>ガリア戦記中倉 玄喜 PHP研究所 2008-02-14by G-Tools 新訳『ガリア戦記』を開いてびっくり、活字が大きくルビが山ほど付いています。児童書なのか? と目を擦りました。 翻訳がどうなのかは、他の訳のを読んでいないので判断がつきませんが、この本は最初の100ページほどの解説が親切です。 共和政末期のローマの状況や、カエサルの生い立ちなど、歴史的背景が手際よくまとめられていて、予備知識のない人でも大丈夫です。 ローマ軍の兵食が、粗挽き小麦を水でこねて焼いたパンがほとんどで、油やチーズは出てもわずか、加えて暑い日には酢を水で割った「ポスカ」を飲むだけって、なんか凄いですね。それで40キロの荷物を背負って行軍するんですよ。カエサルも同じものを食べて体調は良かったらしいです。 でも考えたら、炭水化物は体内で素早くエネルギーに変わるので、兵士にとってはいいのかも。 『ガリア戦記』は、カエサル自身の手による、紀元前58~51年にかけてのガリア遠征の記録です。「カエサル」という三人称を用いて、ガリアの部族を制圧していく様子が淡々と記されています。 私は『ローマ人の物語 ユリウス・カエサル ルビコン以前』で大体のことを読んでいるので、目新しいことはなかったけれど、アレシアの戦いの後に書き上げ、紀元前51年に刊行された本の目的は、遠征後の権力闘争を視野に入れたカエサルのプロパガンダだよなー、とは改めて思いました。 歴史なんてのは往々にして勝者側から見たも…

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