『アルゴナウティカ』アポロニオス

アルゴナウティカ―アルゴ船物語 (講談社文芸文庫)作者: アポロニオス出版社/メーカー: 講談社発売日: 1997/08メディア: 文庫 イオルコスの英雄イアソンは、王ペリアスに命じられ、黒海の東の果てのコルキスにある金羊毛を求めて、ギリシア中の勇士たちと共にアルゴー船に乗り航海をします。 トロイア戦争よりも前の時代の話で、アルゴー船の伝承自体もホメロスの叙事詩より古いらしいです。 この『アルゴナウティカ』は紀元前3世紀ごろの詩人アポロニオスによる叙事詩。『オデュッセイア』のような凝った構成ではなく、話は一本道です。航海の道筋にある地の歴史や、土地にちなんだ神話のエピソードが細かく語られるところは、なんとなく観光ガイドみたいです(笑) まだ子供のアキレウスがちらりと出てきたり、『オデュッセイア』でお馴染みの海の難所、セイレンの歌声だとか、カリュブディスとスキュラの岩の場面もあります。そういう他の叙事詩との関連が楽しい。 イアソンは身体も脳みそもマッチョな英雄とは少し違うし、物語全般に人物の感情表現はわりとおとなしいです。そんな中で第三歌のメデイアが突出しています。イアソンへの恋心から生まれる葛藤と、自分の運命におののく姿が劇的です。後日譚でも魔女的な役割をふられているメディアが気になります。

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『古代への情熱』シュリーマン

古代への情熱―シュリーマン自伝 (岩波文庫)作者: ハインリヒ シュリーマン出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 1976/01メディア: 文庫 娘の名前はアンドロマケー、息子の名前はアガメムノン……!  トロイア遺跡を発掘したシュリーマンの自伝です。 ドイツに生まれたシュリーマンは働きながら苦学し、商社を設立して成功します。やがて彼は私財を投じてトロイアやミケーネを発掘調査し、さまざまな発見をするのでありました。 幼少の頃の夢を実現するという話は創作であるとか、業績に対しても批判のあるシュリーマン。それを織り込み済みで読んでもおもしろい本でした。 業績を連ねてある部分より、シュリーマンの日常や人柄がわかる記述のほうが可笑しくって惹きつけられます。 なにごとも情熱の傾け方がはんぱではなく、語学の方法も「すげー」の一言です。文法上の規則に時間を費やすより、音読と範例の暗唱だ! という強引な主張にしびれます。 夢とかロマンが強調されますが、猛勉強して何ヶ国語も身につけ、商売で財産をつくり、現地で掘りまくる、とても実際的な人だと思います。 テンションが高くて、思い込みが強くて、山っ気があるのが後世に名を残す秘訣かもしれません。あと実行力もね。

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『トロイア戦記』クイントゥス

トロイア戦記 (講談社学術文庫)松田 治 講談社 2000-09by G-Tools 『イリアス』で語られるのは、アキレウスに討たれたヘクトルの葬儀まで。 三世紀ごろのギリシア詩人クイントゥスによる『トロイア戦記』は、その後からトロイア崩壊までが描かれます。アキレウスやパリスの最期、木馬作戦などを読むことができます。 木馬作戦の場面は非常に絵になりますね。 災いの木馬を町に曳くことで破滅に近づくトロイアの人々、虚しく響くカサンドラの予言、それを天上から見てあざ笑うヘラとアテネ。←思えばギリシア方についてる神は強そうです。いわゆるパリスの審判でこの人たちを敵に回したパリスは勇者です。誰を選んでも地獄なんでしょうけど。 個人的にはピロクテーテースの過酷な体験に笑いと涙を誘われます。毒蛇に噛まれた傷口が臭くて孤島に十年間置き去りにされるのです。オデュッセウスに。ひどい。 訳文は雰囲気よりもわかりやすさ優先という感じです。 ただ会話文で「おのおのがた」とか「~でござる」はどうでしょう。 私も「わかりもうした」と答えたくなりました(笑)

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『イリアス』『オデュッセイアー』ホメロス

あらすじは知っているけれど、一度ちゃんと読んでみるかなというわけで、ホメロスの叙事詩『イリアス』と『オデュッセイアー』です。 松平千秋翻訳の『イリアス』、呉茂一翻訳の『オデュッセイアー』という変則的な読書になってしまいました。 松平訳は散文、呉訳は少々意味のとりにくい部分もありますが、もとの韻文の雰囲気を伝えるようなリズムがあります。 叙事詩はもともと口承のものだからなのか、枕詞や定型句、特に『イリアス』に顕著な長い比喩が多くて、冗長に感じられなくもないです。 でも神も人も個性が強く、ええっ! と思うような極端なエピソード満載で笑えたりします。 『イリアス』のアガメムノンは最初の二ページで性格が悪いなこりゃと感じるし、『オデュッセイアー』の詐謀の人オデュッセウスは、作り話ばっかりしています。キュクロプスに襲われたり、魔女や女神に無理やり引き止められたり、冥界に出向いたりといった漂流譚だって、キルケーでもカリュプソーでもいいけれど、本当は十年間女のところでよろしくやっていたのを隠すための作り話ではないの? なんて疑いたくもなります。なにせ老いた親父さんをも作り話で試す人なので。 ギリシア神話がらみの物語って、この人あの人あの神この神、あの出来事があってこの出来事につながるというように、新しい話が派生し増殖してますよね。すごい因果ロマンだなー、なんて思いました。 オデュッセイアー〈上〉 (1971年) (岩波文庫) オデュッセイアー〈下〉 (1972年)…

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