過去を振り返る

あけましておめでとうございます。 カテゴリが1年飛んでいるような気がしますが、昨年の読書を振り返ることにしましょう。 メモをめくると山田稔、多和田葉子に惹かれ、安部公房の再読を始めています。 山田稔の「どこにも力みが感ぜられず、読むうちにこちらの力みも揉みしだかれる」と小沼丹の文章を評しているのに触発されて未知谷の『小沼丹全集』を読了。 補巻を入れて全五巻。大寺さんものと随筆が特に好きです。追憶に追憶が重なって、時系列を無視して記憶のなかを漂ったり、庭の木や小鳥、知人についての話など、なにげない短い散文に心がほぐれます。 翻訳物ではメルヴィル『白鯨』が叙事詩風といいますか神話っぽくて楽しめました。 そして年末年始に読んだばかりのナボコフ『ロシア文学講義』と『ヨーロッパ文学講義』が面白いです。ナボコフが小説のどこに重きを置くのかがびしびしと伝わってきます。細部と構造、文体について熱く語り、トルストイを絶賛してドストエフスキーを否定するナボコフですが、彼の評価には明確な基準があるから偏りがあっても面白いです。 『ヨーロッパ文学講義』は今月河出文庫で『ナボコフの文学講義』上下巻として出ます。 2012年のベストはなんといってもゼーバルト『アウステルリッツ』でしょう。 時間などというものはない、あるのはたださまざまなより高い立体幾何学にもとづいてたがいに入れ子になった空間だけだ、そして生者と死者とは、そのときどきの思いのありようにしたがって、そこを出た…

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『渡りの足跡』梨木香歩

渡りの足跡作者: 梨木 香歩出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2010/04メディア: 単行本 北海道は屈斜路湖の風景を上空から見下ろし、女満別空港に降り立つところからエッセイが始まります。 知床やカムチャツカなどの渡り鳥の飛来地を巡り、今いる場所を離れて彼方へと渡る鳥たち、そして人間たちに思いを馳せます。 私はこの本に図説はいらない派。確かに渡りのルートを示した図や鳥の写真があれば一発です。でもでも肝心なのは想像することではないかしら。知りたければ地図を開けよ。三月末の知床の冴え冴えとした空気に身を浸しながら、オオワシの視点になってみよ。なんて思います。 主な鳥についての註がちゃんとあって、大きさなどの簡単な説明の他、著者の目を通した鳥の印象が付け加えてあります。ユーモアのある記述から鳥を想像し、改めて自分で調べる楽しみもありますよ。 いろんな場所に足を運び、多くの人に会い、様々な書籍を読んで、人々の歴史に一歩一歩近づいて思いをめぐらす。そんな著者の姿勢を感じながら読みたい本です。

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チャペックの旅行記からチェコスロヴァキアとスペインを

チェコスロヴァキアめぐり―カレル・チャペック旅行記コレクション (ちくま文庫)作者: カレル チャペック出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 2007/02メディア: 文庫 カレル・チャペックの生まれた地であるチェコのマレー・スヴァトニョヴィツェ周辺の様子、プラハの都市事情、スロヴァキアの風景を描きます。 北欧やスペインと違い、チェコスロヴァキアとなると、私の中にその地に関する教養も情報の蓄積も少ないことを実感します。彼の故郷の話に出てくるカタカナの名詞には、まるで馴染みがありません。わからないなりにも、山里の情景と、かの地への愛情はなんとなく伝わってきます。 現在チェコとスロヴァキアは国が分かれていますけど、チャペックもスロヴァキアは「本質的に牧畜地帯」と見ていて、チェコとは異質な地という印象を持っています。 プラハめぐりの章は新聞か何かのコラムなのかな。 古い町並み、成長する都市、掘っ立て小屋が並ぶ貧しい人々の生活の様子を集積すると、ひとつの社会批評として成立するのはさすが。 スペイン旅行記―カレル・チャペック旅行記コレクション (ちくま文庫)作者: カレル チャペック出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 2007/03メディア: 文庫 こちらは1929年のスペイン旅行です。 ドイツ、ベルギー、フランスと、列車の窓を風景が流れて行きます。 そしてそして褐色の土地、ピレネーの南の異郷、アフリカ。 チャペックの第一印象では、スペインを別の大陸のよ…

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『彼女のいる背表紙』堀江敏幸

彼女のいる背表紙作者: 堀江 敏幸出版社/メーカー: マガジンハウス発売日: 2009/06/25メディア: 単行本 彼女とは書物の中の女性たちのことなんですね。 やっぱりこの人の言葉の選び方は好きだな。 過去に出会った背表紙のむこう側にいる女性たちを再訪する。そんな趣のエッセイです。 同じ本でも読む時期によって感じ方も様々です。自身が年齢を重ねることで見えてくるものもあります。 本の中の女性たちを語りながら、自らの眼差しの変化にも心を向ける。この距離感というか立ち位置が私にとっては心地よいです。 ふと気がついたら、書物の森と、木を植えた作者の精神がつくりだす空間を、運ばれるままに漂っているのでありました。

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読了本をまとめてメモ

黄色い雨作者: フリオ・リャマサーレス出版社/メーカー: ヴィレッジブックス発売日: 2005/09メディア: 単行本 『黄色い雨』フリオ・リャマサーレス 山あいの寒村にたった一人とり残された男が死に行く話です。 人も村も繁茂する植物に侵食され、降り積もる時間と記憶の枯葉の下に横たわり朽ちていく…。そんな雰囲気です。 訳者があとがきでルルフォに言及してましたけど、私はどちらかというと『ペドロ・パラモ』ほうが好きかな。 f植物園の巣穴作者: 梨木 香歩出版社/メーカー: 朝日新聞出版発売日: 2009/05/07メディア: 単行本 『f植物園の巣穴』梨木香歩 今自分が生きて生態系に組み込まれ、水平的に広がる生命の繋がり。親から子へ垂直に連なる生命の繋がり。抽象的な言い方になりますが、その二つが交差する点に漂いながら、心の内側を覗くような話に思えました。 今までの作品の中では『沼地のある森を抜けて』に近い感じです。物語と波長が合うと、うっかり泣いてしまう人もいるかも。 植物がちりばめられ、ときどき犬の姿になる歯科医の家内だとか、ナマズ顔の神主だとかが登場するファンタジーぽいところはやはり梨木ワールド。 奇縁まんだら 続作者: 瀬戸内 寂聴出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社発売日: 2009/05/16メディア: 単行本 『奇縁まんだら 続』瀬戸内寂聴 今までに出会った様々な人物の記憶を綴ったエッセイ『奇縁まんだら』の続編です。…

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『北欧の旅 カレル・チャペック旅行記コレクション』

北欧の旅―カレル・チャペック旅行記コレクション (ちくま文庫)Karel Capek 飯島 周 筑摩書房 2009-01-07by G-Tools 1936年の夏。カレル・チャペックは妻のオルガとその兄とともに、デンマーク、スウェーデン、ノルウェーの北欧の3カ国を巡る旅をします。 豊かな緑の大地に牝牛の群れが草を食むデンマーク。王宮と自転車乗りの街コペンハーゲンを後にして、花崗岩の国スウェーデンへ。水の都ストックホルム、古の王の墳墓があるガムラ・ウプサラを訪ね、お次はノルウェー。オスロからベルゲン鉄道に乗り、ベルゲンからは船でフィヨルドを北上してノールカップへ向かい、再びスウェーデンに入って南下するというコースです。 土地によって変化する植生、家々の形、人々の気質を見つめて、時にロマンチックに、時にユーモアたっぷりに綴っています。 多才な人で園芸オタでもあるので、植物にもいちいち詳しいです。 船に同乗したアメリカの宗教団体の騒々しさと、笑顔の押し売りを皮肉を込めて描いているのはご愛嬌。全体主義と闘う男は、押し付けがましい思想や集団の圧力が本当に嫌いなのですね。 そんな彼を独特の時間と空間認識に誘ったのは白夜でした。朝と夕方が連続するような淡い光の中で、水面に周囲の景色が映り、上下が失われ、無限と非現実の海に漂う…。詩的でちょっと不安でいい場面です。 イラストもふんだんに載っていて嬉しい。丘や谷に点在する木造の小屋、フィヨルドの入り組んだ海辺に建つ漁師の苫屋や小さな塔の絵…

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