『渡りの足跡』梨木香歩

渡りの足跡作者: 梨木 香歩出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2010/04メディア: 単行本 北海道は屈斜路湖の風景を上空から見下ろし、女満別空港に降り立つところからエッセイが始まります。 知床やカムチャツカなどの渡り鳥の飛来地を巡り、今いる場所を離れて彼方へと渡る鳥たち、そして人間たちに思いを馳せます。 私はこの本に図説はいらない派。確かに渡りのルートを示した図や鳥の写真があれば一発です。でもでも肝心なのは想像することではないかしら。知りたければ地図を開けよ。三月末の知床の冴え冴えとした空気に身を浸しながら、オオワシの視点になってみよ。なんて思います。 主な鳥についての註がちゃんとあって、大きさなどの簡単な説明の他、著者の目を通した鳥の印象が付け加えてあります。ユーモアのある記述から鳥を想像し、改めて自分で調べる楽しみもありますよ。 いろんな場所に足を運び、多くの人に会い、様々な書籍を読んで、人々の歴史に一歩一歩近づいて思いをめぐらす。そんな著者の姿勢を感じながら読みたい本です。

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バルザックとコッパードを読了

小説を読む気にならなくて、新書をつまんだり日本の古典の再読などをしていました。少し気分が変わってきたので、短編集をぽつぽつと読んでいます。光文社の古典新訳文庫にはケチをつける人もいるけれど、気軽に手にとれるのはいいと思いますよ。 『グランド・ブルテーシュ奇譚』バルザック バルザックの長編をそのうち読むつもりです。その前に短編に挑戦。四つの短編とエッセイを一つ収録。 いいなあと思うのは表題作と「ファチーノ・カーネ」 「グランド・ブルテーシュ奇譚」は貴族の館で起きたある事件の話。ゴシック小説のような雰囲気があります。 「ファチーノ・カーネ」は盲目の老楽士の告白。黄金への欲望と憂愁に閉ざされた半生が語られ、幻想に迷いこみます。 余談ですが、うつらうつらしながら眺めていた年譜に、浮き名を流したご夫人がたの名前がずらっと出てきて、一気に目が覚めました。 『天来の美酒/消えちゃった』コッパード この人の短編はどこへ向かうのか読めないです。「消えちゃった」と「レイヴン牧師」の幕切れには、え? となります。 本全体の印象は、登場人物がやっている事や会話はどこか抜けたようなおかしみがあり、悲劇性を備え、場面描写はえらくリリカル。「去りし王国の姫君」と「天国の鐘を鳴らせ」は詩情が溢れんばかりです。 どちかというと「好き」に傾く作家。日本人は「泣ける」とか叙情的なのが好きだよね、なんて上から目線で言いながら、私も実のところリリカルなのに弱いことが判明しました。

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『儒林外史』呉敬梓

中国古典文学大系 (43) 儒林外史作者: 呉 敬梓出版社/メーカー: 平凡社発売日: 1968/10メディア: 単行本 科挙にふりまわされる人々を皮肉った章回小説です。 「儒」とは学ぶ者を指すそうな。具体的には、科挙に合格すれば高位高官の地位や富が得られるので、そのために学ぶ人を指します。 科挙の試験に必要なのは、経書の知識と八股文を作成する能力で、一般的な教養とは無縁なものです。厳しい競争と偏った学問で歪んだ人物がたくさん出てきます。事大主義の俗物、名士を気取って文無しになる者。でもお人よしの馬二先生なんかには「幸あれ」という気分にもなります。 回ごとに登場人物と話がつながっていく形式で、知識階級を点描してるのかと思いきや、いつのまにか何十年も時が流れ時代が変わっていきます。最終回には名士たちは姿を消し、書や音楽、詩をたしなむ庶民ばかりが描かれています。こういう時代の遠近感が印象に残りました。 知識階級、いわゆる読書人の類型が並べられた地味な話ではあるけれど、皮肉にふふっと笑ったり、同時に描き出される風景風俗庶民の姿に、当時の社会の様子が垣間見えたりします。 ちなみに借りてきた平凡社の古い全集の翻訳は読みやすかったです。

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『壊れても仏像 文化財修復の話』飯泉太子宗

壊れても仏像―文化財修復のはなし作者: 飯泉 太子宗出版社/メーカー: 白水社発売日: 2009/05メディア: 単行本 著者は財団法人美術院国宝修理所のスタッフを経て、現在はNPO法人を主宰し仏像の修復活動を行っています。 実際に修復に携わる立場から、修復の過程や文化財をとりまく状況を紹介しています。 仏像の素材と構造、どんな風に壊れそして修復するのかを、プラモデルなど身近なものと比べながら、くだけた文章でわかりやすく解説してあります。仏像を眺めるのは好き、でもそんなに知識はない私でも楽しめる本でした。 古い仏像は今に至るまでに何度も修理を受けていて、造られた当初とは姿が変化しているものも多いとか。 広隆寺の弥勒菩薩半跏像は、全身に金箔が貼られていたものが、表面が剥がれ落ちて骨格の部分がむき出しになっていて、今ではその状態が鑑賞され賞賛されているそうです。 他にも立像の痛んだ下半身の部分が切断されて、坐像に変えられていたなんてユニークなものもあります。 仏像を実用品と見るか、美術品として見るかで修理の仕方も変わるのは興味深いです。 仏像を信仰の対象として見る側は、金箔や彩色を施し見栄えがするように修理したい、しかし文化財や美術品として見るならば、古いものを新品のようにしてしまうと価値が損なわれてしまいます。著者が修復するときは、古いままにしておく「文化財修理」をすすめるそうですが、どちらかが絶対に正しいというものではない悩ましい問題なのはわかります。 そ…

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『冬物語』カーレン・ブリクセン

冬物語作者: カレン ブリクセン出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 1995/01メディア: 単行本 以前に読んだ『運命綺譚』にも通う、人の運命をめぐる物語。 『冬物語』はデンマークを舞台にした話が多いです。 人を殺してしまった少年水夫、普仏戦争を前にドイツで逮捕されたフランスの貴婦人、古のデンマーク王など。彼らが自分が自分であることを受け入れ運命を全うできるかどうか、そんな思想が話の底に共通して流れています。 物語の中に物語が配置され、人の夢とあこがれ、そして悲しみが、外側と内側の物語の間にこだましているように感じました。 自身を欺いたり運命から逃げ続ける人生は虚ろです。しかしたとえ向かう先が悲劇であっても、人が自分自身になり運命を待つ場面は、瞬間が無限に引き伸ばされ、不滅の輝きをもって描かれています。 話にぐっと入り込ませておいてふっと力を緩めるような緩急のつけかたや、物語の深度を自在にあやつるのが上手いんですよね。 森の中でのひそひそ話、凍りつく海峡の氷のうねり、デンマークの自然が物語内に息づいているのもいいです。 収録作品をメモ。 「少年水夫の物語」 「カーネーションをつけた青年」 「真珠」 「ゆるぎない奴隷所有者」 「エロイーズ」 「夢見る子」 「魚――古きデンマークより」 「アルクメネ」 「ペーターとローサ」 「嘆きの畑」 「心のためになる物語」

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『高慢と偏見』ジェイン・オースティン

田舎の地主の次女エリザベスと、家柄も財産も容姿も申し分ないダーシー氏が、誤解や格の違いに基づく偏見のためにいろいろありながらも結ばれるという恋愛小説です。 お堅いタイトルだし恋愛小説だし、と今まで読まなくて損した気分です。 財産があって働かなくても食べていけるジェントリー階級でも、さらに格差があります。 あちらの家が上だの、そちらの家が下だのと人が判断する基準を事細かに描いているのがとりわけ面白かったです。 年収がいくら、身分の低い親戚がいる、そして家族や友人など個人の振る舞いのひとつひとつが、エリザベスとダーシー氏の関係に深く影響を及ぼします。 娘たちをいい家に嫁がせるのに血道を上げる母親のベネット夫人もすごいけれど、父親のベネット氏の強烈な皮肉が一番好きです。 くどくどしいコリンズ氏の手紙に対して、筆不精なベネットパパの手紙は、簡潔かつ皮肉を込めた言葉で核心をついていて笑えます。 「高慢と追従と、尊大と卑下が混ざりあった奇妙奇天烈な人間」と描写されているコリンズ氏と、ベネット氏の往復書簡集があったら読みたいと思ってしまいました。 そういえば上巻ラストのダーシー氏の手紙の場面は、非常に盛り上がりますね。そして下巻に続く…! なんてところがニクいです。 高慢と偏見 上 ちくま文庫 お 42-1作者: ジェイン オースティン出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 2003/08メディア: 文庫 高慢と偏見 下 ちくま文庫 お 42-2作者: ジェ…

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北森鴻さん死去に驚く

ミステリー作家の北森鴻さん死去のニュースに驚きました。 いつも訪問している複数のサイトさんのエントリーを朝読んで、あわててニュース記事を探しました。 1月25日に心不全で亡くなられたのですね。48歳。 来月新刊が出るなあなんて思っていた矢先です。 北森さんの作品は私が読書ブログを始めてから、同じく本好きの方に教えていただいて読み始めました。 民俗学や骨董、料理などを扱ったミステリーが楽しかったのに、もう新しい作品が読めなくなるのですね。 香菜里屋シリーズも、冬狐堂シリーズもよかったなあ。 ああ、雅蘭堂の越名さんが好きだったのに。 北森鴻さん、今まで数々のすばらしい作品をありがとうございました。

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