『秘密の花園』読んだよ、堀江敏幸買ったよ

『秘密の花園』バーネット 来月、岩波のブックレットで梨木香歩「『秘密の花園』ノート」が出るので読んでみました。 裕福であっても親から顧みられず、わがままに育ったメアリとコリンの境遇は、不幸のどん底で周囲にいびられながらも真直ぐ育つ健気な子供よりも現代的かもしれないと少し思いました。 その一方でイギリスの上流階級で親が子供に無関心というか、あまり関わらないような習慣が一部あったのかしらんと思ったり。 イギリス貴族の大邸宅で生まれ育ち、現在京都にお住まいのベニシア・スタンリー・スミスさんが、「子供の頃、両親に会うのは1日5分だった」と仰っていて驚いたことを思い出します。 ここから先は買った本。 『一階でも二階でもない夜 回送電車Ⅱ』堀江敏幸 単行本で読んでいます。書名のリンクはそのときの感想です。文庫化されたので購入。 『書かれる手』堀江敏幸 出てるのを知りませんでした。上の文庫を検索していて見つけました。即購入。これは未読です。 そういえば『本の音』も未読なんですが、出版社が晶文社です…。どこかで文庫で出したりはしないのでしょうか。 『前巷説百物語 』京極夏彦 こちらも単行本では読書済み。やはりカバーは旧鼠でした。子猫ちゃんがかわいい。解説はなぜか宇江佐真理。依頼されたご本人も少々訝っていた模様。 『お菓子と麦酒』サマセット・モーム 先日ふらりと立ち寄った古本屋で購入。気になっていたのです。 買うと安心、読…

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少しずつ読むディーネセンの物語

本によってはイサク・ディーネセン、カーレン・ブリクセンなどいろいろ名義がありますが同一人物です。念のため。 『アフリカの日々』は良い作品ですが個人的にはあまりピンときませんでした。しかし書名に惹かれて手に取った『運命綺譚』にやられました。続けて読んだ『バベットの晩餐会』で決定的になりました。 聖書や神話がさりげなく配され、現実からはすこし浮遊した、おとぎ話のような雰囲気を漂わせる物語。けれど文章はとても理知的です。高まる緊張のなかにもユーモアがあります。そんなところが私の肌に合います。 芸術は人々を至福の時に導くだけでなく、人の奥底に眠る官能を呼び覚まします。 例えば禁欲的な信仰を持つ人にとってそれは危険なことだったりします。己の中にある何ものかに冷やりとさせられたり、規範を取り払われたりするのが真の芸術と言えるのかも。 真の芸術家の孤独な魂を描く物語でもあります。 もったいないので未読のものは少しずつ読もうかと思っています。しかし絶版が多いのよね…。 原書では『運命綺譚』に「バベットの晩餐会」も収録されているそうです。 あと『運命綺譚』と対になる『Last Tales』を翻訳して出してもらえませんか。 翻訳本の収録作品をメモ。 『運命綺譚』 「水くぐる人」「あらし」「不滅の物語」「指輪」 『バベットの晩餐会』 「バベットの晩餐会」「エーレンガート」 運命綺譚 (ちくま文庫)作者: カーレン ブリクセン出版社/メーカー: 筑摩書房発売…

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『戦争と平和』トルストイ

戦争と平和〈1〉 (新潮文庫)作者: トルストイ出版社/メーカー: 新潮社発売日: 1972/03メディア: 文庫 一度読んだぐらいでは到底把握できない作品なので、いつか再読するつもりです。通読して頭に浮かんだことを書いておきます。 歴史とは一人の英雄によって作られるものではなく、無数の人々の行動から成り立つものである。 この歴史観を明らかにするために、話の中心となる貴族の家庭から農民や一兵士にいたるまでの大勢の登場人物の行動によって、ナポレオンがロシアに侵入してきた時代を描きます。 トルストイの作品は登場人物がみな生きているのがすごい。 主要な登場人物のピエールを取り上げてみます。貴族の庶子であるピエールは、感じやすく、善徳や人類愛を夢想しながら、意志薄弱ですぐ酒に溺れてしまうような人。自分の内面にばかり没入して周りの人が見えていないし、そんなに清らかなのが良ければ嫁のことを云々する前に、自分が山にこもって滝にでも打たれればいいのに、などと私は思って同調はできないのです。 そんな人でも(すいません)ピエールが感じている精神と肉体と外界との不調和を、私が一瞬体感する場面があって、これだけでも読んで良かったと思いました。 トルストイの作品を読んでいると、作家本人が気になってしょうがないです。 『戦争と平和』を執筆したのは40歳前後ですが、後世に生きる私は、その後のトルストイの作品や生涯を知ることができます。本作でもピエールとアンドレイ公爵にトルストイ自身が投影され…

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『鏡の影』佐藤亜紀

鏡の影 (講談社文庫)作者: 佐藤 亜紀出版社/メーカー: 講談社発売日: 2009/09/15メディア: 文庫 全世界を変えるには、ある一点を変えれば十分な筈だ。 そんな考えの虜になったヨハネスは旅に出ます。 ひとつの考えに取り付かれたヨハネスが、メフィストフェレスならぬシュピーゲルグランツと名乗る美少年をお供に、真理を求めて彷徨する珍道中…ですよね、これ。 そんなふうに楽しんで読みました。 ヨハネスが大まじめにパズルめいた謎解きに熱中する姿や、恋するグァネリウスの切実さは滑稽なんだけれど、胸がきゅんきゅんしますよ。 読んでいてダ・ヴィンチの「受胎告知」とか「白テンを抱く婦人像」のような絵画が頭に浮かんできます。その延長なのでしょうか。読後の印象も場面場面が絵画になって思い出されるのが私としては面白いです。

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『人魚とビスケット』J・M・スコット

人魚とビスケット (創元推理文庫)作者: J.M. スコット出版社/メーカー: 東京創元社発売日: 2001/02メディア: 文庫 人魚へ。とうとう帰り着いた。連絡を待つ。ビスケットより。 ビスケットから人魚への呼びかけ、それに応答する第三の人物ブルドッグ。 新聞の個人広告欄で始まった奇妙なやりとりには、過去の漂流事件の謎が秘められていた…。 ロマンチックな想像がふくらむタイトルと、導入部の個人広告は並外れた吸引力があります。 小さなゴムボートで海上を漂流する男女の物語は、飢えと渇きの肉体的な苦しみに加えて、極限状態に置かれて生き延びるために協力したり、牽制したり、閉じた人間関係の緊張とそれがはらむ狂気が念入りに描かれています。 現代のサスペンスのようなどぎつさがなくて、おとなしく感じるかもしれません。でも「人魚とビスケット」という言葉が喚起する、おとぎ話のようなイメージが漂流譚を包む雰囲気はけっこう好きです。

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保坂和志で頭をもみほぐす

こうやって本のメモを残しておくと、あとで思い出せていいのですが、書くための読書みたいになっていると感じるときもあります。 そんな硬直した頭をもみほぐそうと、保坂和志の『小説の自由』を読んだら余計に頭がもやもやしました。 でもこれは燃料が投下されたもやもやで、思考を続けるもやもやです。 簡単にわかった気分になったり、難癖つけるのではなく、好きで読んでいるのだから、その小説世界に近づきたいし、今いる場所からどこかへ連れていかれたいと思います。 そのための方法や気づきが、うねうねした文章から時おり立ち上がってきます。 いま『小説の誕生』を読み始めたんですけど、なんか引用が長くないですか? まあいいや。 『小説、世界の奏でる音楽』まで続けて読めるかな…。 小説の自由作者: 保坂 和志出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2005/06/29メディア: 単行本 小説の誕生作者: 保坂 和志出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2006/09/28メディア: 単行本 小説、世界の奏でる音楽作者: 保坂 和志出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2008/09メディア: 単行本

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『大奥 第五巻』よしながふみ

大奥 第5巻 (ジェッツコミックス)作者: よしなが ふみ出版社/メーカー: 白泉社発売日: 2009/09/29メディア: コミック 綱吉編です。 第四巻で、物憂げな魅力で周囲を惑わす綱吉にわくわくした私でありますが、いい意味で裏切られます。第五巻で見せる、ひとりの生身の人間の顔に泣きたくなりました。 表向きの雰囲気は、世の中が平和になって、元禄文化がはなひらいて、大奥でもギラギラした欲望が交錯して…だけれど、綱吉に限らず玉栄も右衛門佐も皆すこしずつ哀しいのだなあと。 柄on柄という伝兵衛のすごい衣装にすら哀しみをおぼえます。いや、お伝はいいやつです。 読んでいてほんとうに悲しくなってしまっただけに、お信との対面は清々しかったです。綱吉の笑い声も切なさも痛いほどわかります。

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十二国記と佐藤亜紀とモリミーと

流れに何の関連もないと思いつつ、読んだ作品と作家を無理やり並べてみました。雑感を簡単に書いておきます。 yom yom (ヨムヨム) 2009年 10月号 [雑誌]作者: 出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2009/09/26メディア: 雑誌 yomyomの12号はもちろん十二国記の新作が目的です。 事前に新潮社のサイトで告知があったので、『華胥の幽夢』収録の「帰山」を読んで気分を盛りあげました。 新作は柳国が舞台でタイトルは「落照の獄」 「帰山」で語られた柳国の状況を内側、つまり官吏の視点から描きます。司法がらみでタイムリーな話といえますかね。でもちゃんと「天」につながっていて、十二国記の世界観に組み込まれています。天綱に記された条理は絶対で、そのこと自体は是非もなく容認されていても、やはり人は悩むし揺れるのでありました。 今度はもう少し動きのある話が読みたいなー、と贅沢を言ってみます。というか本編はどうなるの? 激しく、速やかな死作者: 佐藤 亜紀出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2009/06メディア: 単行本 『激しく、速やかな死』佐藤亜紀 短編集です。 うー、これはヨーロッパの歴史と文化の知識がないとつらいです。サド侯爵ならメジャーだし、白檀の小箱の話のように、背景を知らなくても女の人の意地悪な言い回しを楽しめる話もあるんですけどね。 作者による解題がついてますけど、私の力不足ということで…。 これを隅まで理解できる人…

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『料理人』ハリー・クレッシング

料理人 (ハヤカワ文庫 NV 11)作者: ハリー・クレッシング出版社/メーカー: 早川書房発売日: 1972/02メディア: 文庫 田舎町に現れた謎の料理人が町の名士に雇われ、料理の腕と悪魔的な魅力で周囲を惹きつけていくのだが…というお話。 洗練されていて美味しくて、相手の体調まで思いやった料理にころっといくのは万国共通なんでしょうね。ストーリーでは不穏な空気が漂いはじめますが、そんなのはどうでもよくなりました。 だってこの人たち充実していて楽しそうだもの。 メニューを考え、テーブルセッティングも完璧に、作って食べて、もてなしもてなされて…。もう他の事なんか何も見えないの、365日ハレの日なの、みたいな人たちが幸せそうだもの。 こういう壊れ方なら私もしてみたい…っていうのはダメでしょうか。病んでますか。

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デュラスとサガンで小説三本立て

太平洋の防波堤/愛人 ラマン/悲しみよ こんにちは (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-4)作者: フランソワーズ・サガン出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 2008/03/11メディア: ハードカバー 池澤夏樹個人編集による世界文学全集の一冊。 フランス人女性作家の三つの作品を続けて読んだわけですが、なんだか疲れました。 マルグリット・デュラスが全然進まなかったです。 『太平洋の防波堤』も『愛人 ラマン』もフランス領インドシナが舞台。入植した貧しいフランス人一家の娘の性と愛が語られています。読み進むのに時間がかかったからといって面白くないわけではないです。細部に、おっ? と思うところがたくさんありました。 少女を主体とした性愛のとらえ方、描き方は冷徹。 『太平洋の防波堤』で少女は男の欲望をきっかけに、他者から見られること、そうすることによって自分は世間に乗り出してゆくことになるのだと感じます。逡巡し、まさに自身の生身を世間に(その男に)さらけだそうとしたとき、男は蓄音機をあげるからドアを開けろと言うのです。物質(富)を介在させるのです。 『愛人』になると少女は男に心を動かさないようにします。他の女と同じように接することを男に要求するのです。 デュラスの少女時代の体験が小説のおおもとにあるみたいですけど、同じようで微妙に違いますね。 『太平洋~』に比べて『愛人』は簡潔で文章も流麗になります。でも省略してあって分りにくいエピソードを『太平洋~』から想像して補え…

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『RDG2 レッドデータガール はじめてのお化粧』荻原規子

RDG2 レッドデータガール はじめてのお化粧 (カドカワ銀のさじシリーズ)作者: 荻原 規子出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)発売日: 2009/05/29メディア: 単行本 『RDG レッドデータガール はじめてのお使い』の続編です。 私は児童書のタグをつけてますが、カドカワ銀のさじシリーズは「子どもから大人まで楽しめるファンタジー」というコンセプトのようです。 今回はおもいきり学園物。高校生になる泉水子は紀伊を出て東京の鳳城学園に入学します。学園には有能な学生がひしめいていて、相変わらずまごまごする泉水子であります。 学園の謎あり、山伏や陰陽師といった日本古来から続く存在あり、超人のようでいても普通の高校生が抱えるような心の揺れありで楽しかったです。 さくっと読めるわりに、背後の世界観に広がりがあります。 古来からある神秘的な力。それらをめぐる暗闘。山や木々が発する清浄な気みたいなものを、泉水子を通して感じること。 過去の存在に思いを馳せたり、身体感覚を呼び覚ますところが私は好きなんですよね。 続きが読みたいと思わせる荻原規子の力はたいしたもんです。 ここから脱線。 イザベラ・バードは伊勢神宮を訪れたとき、「からっぽでおそろしい」というような感想をもらしています。 大雑把にいえば、神道にはキリスト教や仏教のような教義は無いので、そう感じるのもわからないでもないです。からっぽだから政治の具になるというのも当たっていま…

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『ソラリス』スタニスワフ・レム

ソラリス (スタニスワフ・レム コレクション)作者: スタニスワフ レム出版社/メーカー: 国書刊行会発売日: 2004/09メディア: 単行本 惑星ソラリスの海から昔の恋人がやってくる…。 読む前にそんなイメージだけが私の頭に刷り込まれていた『ソラリス』。観たことないですけど、映画の宣伝か何かの影響だったのでしょうか。実際は恋愛モノという意識はないまま読了しました。いや、そういう要素はありますけども。 頭に浮かんだ断片だけつぶやいておこうかな。内容に触れるので続きは以下で。

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『シュリーマン旅行記 清国・日本』ハインリッヒ・シュリーマン

シュリーマン旅行記清国・日本 (講談社学術文庫 (1325))作者: H.シュリーマン出版社/メーカー: 講談社発売日: 1998/04メディア: 文庫 トロイア遺跡を発掘する(『古代への情熱』シュリーマン)数年前、シュリーマンは世界をめぐり日本にも立ち寄っています。本書は1865年に清の時代の中国と幕末の日本を訪れた時の旅行記です。 中国では気分を害することが多かったのか、物言いが厳しいです。そのへんを割り引いて読んでも、北京で塔の上から眺めた宮殿は、手入れが行き届かず朽ちるままになっていて、衰退の一途をたどっていた様子がうかがえます。 どうしても行きたかった万里の長城では、古代の遺物と岩山が連なる景色に感動し、ふたつで25キロの重さがある長城のレンガを背負って帰るのでした。 日本に対してはかなり好意的。清潔で小さな庭のある住まい、見事な細工物、清廉な役人などが好感度を上げたようです。 物の値段や寸法を細かく記録するきっちりしたところとか、望むことを実現する行動力とか、シュリーマンの性格が出てるなあなんて思いました。 多少の誤解や思いこみもあるんですけど、この人は物事を相対的に見るよう意識してます。所変われば品変わるで、どこか一点を基準に判断しないようにしてるみたいです。 あとは外国人の立ち入りが制限されていた江戸に、普通の旅行者がよく入れたなと。外国人が襲撃されるような物騒なご時勢で、滞在したアメリカの公使館も凄い警備なんですよね。 国内から見た幕末って、坂…

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『ガラスの仮面(44)』美内すずえ

ガラスの仮面 44 (花とゆめCOMICS)作者: 美内 すずえ出版社/メーカー: 白泉社発売日: 2009/08/26メディア: コミック 半年で続きが出るなんてこれは夢なのかしら(笑) マヤと真澄さまと紫織さんのもちょもちょした関係とか、亜弓さんが一皮むけそうな展開はあるんですけど、話はあんまり進まないですね。 絵も人物の反応も大げさな濃い~ところは健在で、細かいシーンに吹きまくりました。 雨の中でニコと笑う白目の亜弓お姉さまとか、真澄さまの身悶えとか、バッグの肩紐がブチと切れるとか。 後半の亜弓さんにいたっては、ドラマの赤いシリーズなのかと問い詰めたいです。 話が進まんなどと言いつつ、昭和の薫りがする細部を楽しんで読んでいたのでした。

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チャペックの旅行記からチェコスロヴァキアとスペインを

チェコスロヴァキアめぐり―カレル・チャペック旅行記コレクション (ちくま文庫)作者: カレル チャペック出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 2007/02メディア: 文庫 カレル・チャペックの生まれた地であるチェコのマレー・スヴァトニョヴィツェ周辺の様子、プラハの都市事情、スロヴァキアの風景を描きます。 北欧やスペインと違い、チェコスロヴァキアとなると、私の中にその地に関する教養も情報の蓄積も少ないことを実感します。彼の故郷の話に出てくるカタカナの名詞には、まるで馴染みがありません。わからないなりにも、山里の情景と、かの地への愛情はなんとなく伝わってきます。 現在チェコとスロヴァキアは国が分かれていますけど、チャペックもスロヴァキアは「本質的に牧畜地帯」と見ていて、チェコとは異質な地という印象を持っています。 プラハめぐりの章は新聞か何かのコラムなのかな。 古い町並み、成長する都市、掘っ立て小屋が並ぶ貧しい人々の生活の様子を集積すると、ひとつの社会批評として成立するのはさすが。 スペイン旅行記―カレル・チャペック旅行記コレクション (ちくま文庫)作者: カレル チャペック出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 2007/03メディア: 文庫 こちらは1929年のスペイン旅行です。 ドイツ、ベルギー、フランスと、列車の窓を風景が流れて行きます。 そしてそして褐色の土地、ピレネーの南の異郷、アフリカ。 チャペックの第一印象では、スペインを別の大陸のよ…

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『彼女のいる背表紙』堀江敏幸

彼女のいる背表紙作者: 堀江 敏幸出版社/メーカー: マガジンハウス発売日: 2009/06/25メディア: 単行本 彼女とは書物の中の女性たちのことなんですね。 やっぱりこの人の言葉の選び方は好きだな。 過去に出会った背表紙のむこう側にいる女性たちを再訪する。そんな趣のエッセイです。 同じ本でも読む時期によって感じ方も様々です。自身が年齢を重ねることで見えてくるものもあります。 本の中の女性たちを語りながら、自らの眼差しの変化にも心を向ける。この距離感というか立ち位置が私にとっては心地よいです。 ふと気がついたら、書物の森と、木を植えた作者の精神がつくりだす空間を、運ばれるままに漂っているのでありました。

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『イトウの恋』中島京子

イトウの恋 (講談社文庫)作者: 中島 京子出版社/メーカー: 講談社発売日: 2008/03/14メディア: 文庫 伊藤つながりで手に取りました。 イザベラ・バードの著作に想を得た小説です。 横浜の中学校で郷土部の顧問をつとめる男性教師と、伊藤の子孫と目される女性が伊藤の手記の続きを探すうちに、互いに惹かれていく…という話。 『イザベラ・バードの日本紀行』からは、伊藤青年は酒は嗜まず、宿では母親や知人に手紙をしたため、日記をつけていたと筆まめな様子がうかがえます。伊藤の日記なんて興味津々ではありませんか。 そういうところから伊藤の手記というアイデアが生まれたのでしょうか。小説の手記では50歳を過ぎた伊藤が若い頃を回想する形で、I・Bへの恋心を綴っています。 旅の様子は北日本紀行のまさに伊藤視点なわけで、ああ、そんなことがあったねー的な楽しみ方ができます。 フィクションに実在の人物を重ねるのは野暮かもしれないけれど、生年月日からいくと伊藤はこのとき20歳なんですね。 国立国会図書館のサイトに伊藤鶴吉の画像がありました。 男女が旅をする→恋愛感情を抱くという設定はベタな感じがするし、手記を探す現代の男女がこれまた惹かれあうのもわかりやす過ぎね? とも思います。 ただ、一人の人間が生きた時間を知ることは、明治のはじめ=日本が近代国家をめざして邁進していた時代という漠然としたイメージから一歩進んで、もっと近くに感じたり、さらに想像を押し広げる力を与えてくれるように思い…

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『イザベラ・バードの日本紀行』イザベラ・バード

1878年(明治11年)の日本を旅したイギリス人女性による旅行記です。 平凡社から出ている『日本奥地紀行』は、東北と北海道の旅を収録した普及版の翻訳。 講談社の『イザベラ・バードの日本紀行』は原典初版本の翻訳で、関西の旅も収録されています。 東北と北海道の旅は、従者と通訳を兼ねる伊藤と二人で東京から日光を経て新潟へ、東北の山間部を通過しながら青森、北海道へと渡ります。 蚊と蚤に悩み、山間部の農民の貧しく不潔な姿に驚き、木々が茂る山々の景色に感激するわけですが、偏見や好悪を表す辛辣な言葉があり、正直いい気持ちがしないところも多々あります。 イザベラ・バード個人の価値観や経験則から来るものだし、時代的な制約もあるので、そこもコミで読むべきなのでしょうけど。 とはいえ、実際に足を運んで人々の暮らしを見聞する彼女の意欲と、物事を注意深く観察する姿勢には敬意を払います。貧しく不潔な農民たちが田畑をきちんと手入れし、夜には手仕事をして経済的に自立し、子供を可愛がるところも見ています。 アイヌの描写も、風習、言語、宗教、村落による違いまでも詳しく観察し考察しています。 あとは、通訳の伊藤ウォッチャーになってしまいました。まだ18歳のおもしろい人物です。抜け目ない性格で、雇い主を操縦しようとする面もありながら、頼りになるし勉強家。西欧文化とキリスト教を至上とするイザベラと、伊藤の強烈な愛国心と外国人嫌いな面の対比は、日本人の外国文化に対するねじれた感情が垣間見える気がします。 関…

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『ローマ人の物語 ローマ世界の終焉』塩野七生

ローマ人の物語〈15〉ローマ世界の終焉作者: 塩野 七生出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2006/12メディア: 単行本 ついに最終巻です。単行本の15巻。 そうか。ローマ帝国の滅亡ではなく、ローマ世界の終焉なのですね。 敗者をも同化し、国内の安全を保障することで繁栄したローマ帝国でありますが、統治者がこの責務を果たせなくなって衰えていきます。 蛮族の流入が激しかったのは第一にあるけれど、神が授けた皇帝のイスに座る者の目が、人や社会を見なくなった気がしてならないです。読んでいても、蛮族相手に奮闘したスティリコやベリサリウスのような将軍の他は、皇帝の名前が目の前を次々と流れていったという印象です。 皇帝も市民も、自分たちの力で土地も人も治めていくのだ、という気概が失われていったように思いました。 それにしても西ローマ帝国はあっけなく滅亡して、その直前は皇帝がころころ変わっているにもかかわらず、肖像を刻んだコインは残っているのだなあと妙に感心しました。

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『千島紀行』ステン・ベルクマン

千島紀行 (朝日文庫)作者: ステン ベルクマン出版社/メーカー: 朝日新聞発売日: 1992/08メディア: 文庫 スウェーデンの動物学者で探検家のステン・ベルクマンによる、千島列島の探検記です。 1929~1930年にかけての一冬二夏を、根室半島からカムチャツカ半島の間にちらばる島々で過ごします。 千島列島は北方領土も含めて、日本とロシアの間で領有権問題がありますが、実際はどんなところなのか知らなかったりします。 岩の多い岸辺に火山がそそり立つ火山列島であり、島によって異なる植生のなかに獣も鳥も魚も驚くほどいます。寒い土地なのに本州と同じような日本家屋に暮らす日本人や、色丹島に移住させられた千島アイヌの人たちの姿もあって、80年前の千島の様子がよく伝わってきます。 地勢や生物相を記録しながら、人々の営みにもあたたかい眼差しが注がれていて、一見軽やかな紀行文なんですが、探検家だけあって、けっこう無茶なこともしてます。 まだ雪が残る季節に熊の冬眠穴で一夜を明かしたり、初めての潜水で鼻血を出すほど潜ったり。 原始的な世界に身を浸す喜びと、冷静な観察眼が同居したベルクマン氏の文章の魅力は大きいと思います。

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