『家守綺譚』梨木香歩

家守綺譚梨木 香歩新潮社 2004-01by G-Tools 学士綿貫征四郎の著述という形の連作掌編です。 湖から引いた疏水につながる池と、庭木が伸び放題の庭がある二階建ての日本家屋。家守としてここに移り住んだ綿貫は、庭木に惚れられたり河童や子鬼に会ったりと、わけが解らないながらも自然とそれらを受け入れて日常をおくります。今は亡き友人の高堂が、掛け軸の風景の中からボートを漕いで現れるあたりは、小泉八雲の『果心居士のはなし』(果心居士が屏風のなかの船に乗って去っていく)を思い出させます。 季節の移りかわるなかで出会う不思議な出来事に、隣のおかみさんも寺の和尚も、後輩の山内ですら馴染んでいて、綿貫にアドバイスをしてくれるのが長閑で楽しく、境界のあいまいさを普通の事として暮らしていた人たちを、羨ましく思ってしまいました。

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『イヴの眠り(3)』吉田秋生

イヴの眠り―YASHA NEXT GENERATION (3) (flowersフラワーコミックス)吉田 秋生小学館 2004-12-20by G-Tools ネオジーニスの遺伝子を受け継ぐアリサが、実父の体細胞クローンである死鬼(スー・グイ)と戦う話です。 文章にするとなんだか陳腐?(笑) やあ、スピード感がありますね。飛び道具より燕針や拳法をつかった肉弾戦の方が読んでいて楽しいですよ。この先、死鬼の鬼畜ぶりが続くのか、あの人やその人はどうなるのー、と一人で気をもんでます。 しかし別な漫画になっても次の世代の人物を出されると、いつまでも読まなければならないじゃないですか。 商売上手です。

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『つるつるの壺』町田康

つるつるの壺 (講談社文庫)町田 康講談社 2004-04by G-Tools すみません。また町田康のエッセイです。だって好きなんだから仕方ないじゃないですか。 この人の敏感なといいますか、神経質なところが面白いのですけど、世の中や身近な体験をずばっと斬りながらも、その刃がちゃんと自分にも向いているのが、そこら辺のエセ文化人とは一線を画するのです。 最近の、周囲に対する顧慮・配慮というものがまるでない「おれおれあたしあたし」という人間には「俺にとっては俺は俺で、おまえばかりが俺ではないのだよ」と仰る。その通りです。 町田康の個人的なヒーローは大岡越前とのこと。 ちなみに私の時代劇ヒーローは市川雷蔵の眠狂四郎でしょうかね。内容は忘れてしまいましたけど、妖しくて猟奇で、ぞくぞくしながら観ていた記憶がありますよ、小学生の時に。 さすがにリアルタイムではなく夕方の再放送でした。

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『ガラスの仮面(42)』美内すずえ

ガラスの仮面 (第42巻) (花とゆめCOMICS)美内 すずえ白泉社 2004-12-16by G-Tools やっと読めました。 内容は野暮になるので書きませんが、濃い世界は健在でした。 思った事だけ独り言。 さすがお嬢さまは言う事が違います。衆目の前で……。<紫織さん 古き良き少女漫画にも時代の波が押し寄せます。<携帯電話 男の嫉妬の炎がメラメラと。<速水社長&桜小路くん 何年かかろうと、ぜひ完結していただきたい。

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『くらやみの速さはどれくらい』 『ぶらんこ乗り』

全然興味がもてなかったり、「うわあ、生理的にだめだ」という本は数ページで読むのをやめるのですが、とりあえず最後まで読んだけどいまひとつ入り込めなかった、という本もあります。 特に師走など忙しい時にその手の本が増えるということは、単に集中して読めてないだけで、別の機会に読むと違うのかもしれないと思いつつ。

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『奪取』真保裕一

やー、もう面白かったです。今更私が何を書くこともないのでしょうが、まあ簡単に。 偽札造りに魅せられた道朗たちが、ロマンを追い情熱を傾けて、ボコボコになりながらもやくざ相手に渡り合います。 テンポもいいし、ぐいぐい読ませますね。 今年は新券が発行されました。そこで一葉さんと英世さんを観察。う~ん、触ると今までよりインクが盛り上がっているのが解ります。国立印刷局のお札の紹介を見ながらどうぞ。 通貨偽造の罪は以下のとおりです。 刑法148条(通貨偽造及び行使等) 1. 行使の目的で、通用する貨幣、紙幣又は銀行券を偽造し、又は変造した者は、無期又は三年以上の懲役に処する。 2. 偽造又は変造の貨幣、紙幣又は銀行券を行使し、又は行使の目的で人に交付し、若しくは輸入した者も、前項と同様とする。 実際、偽造事件は無くならないし、イタチごっこなのでしょうねえ。

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『十人十色「源氏」はおもしろい』瀬戸内寂聴

寂聴対談 十人十色「源氏」はおもしろい (小学館文庫)瀬戸内 寂聴小学館 1998-11by G-Tools 瀬戸内寂聴が源氏物語についていろんな人と対談、時に放談しています。 顔ぶれは丸谷才一・俵万智・清水好子・大庭みな子・秋山虔・氷室冴子・橋本治・五木寛之・久保田淳・八嶌正治・三島由紀夫・竹西寛子。 作家あり、歌人あり、国文学者ありですね。 登場人物では誰が好きか?  私は朧月夜なんですけど、俵万智と大庭みな子もそうらしい。でも表題どおり十人十色で、どう読むかも着眼点も皆さん違って興味深いです。そして橋本治とはなにげに意見が合わない所があって、どちらも自己主張が強そうなのがなんだか可笑しい。 他には川端康成も源氏を書こうとしていた、なんて話もありました。 ちなみに三島由紀夫は与謝野晶子訳がお好みらしいです。 私は田辺聖子と瀬戸内寂聴しか読んでいませんが、三島由紀夫が推すなら読もうかな。

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『源氏物語と日本人』河合隼雄

源氏物語と日本人―紫マンダラ (講談社プラスアルファ文庫)河合 隼雄講談社 2003-10by G-Tools 臨床心理学者の河合隼雄が、独自の見地から『源氏物語』の全体にわたる構図を明らかにしていきます。 紫式部が自分の内面世界に住む多様で変化に富む女性の群像を見出した。その「世界」を記述するにあたって、彼女自身を中心とするのではなく、一人の男性を中心とするほうが適切に描ける、そう感じて光源氏が生み出された。 しかし男性に依ってその存在のあり方を規程するのではなく、女性が個としての存在をそのままに感じ取る必要性を感じ、新たな物語を書き起こす事が必要になった。それが「宇治十帖」である。 紫式部が男と女の新しいあり方を描きながら、個としての女性像<浮船>に到達していくさまを、河合隼雄があらゆる角度から検証します。 「宇治十帖」の著者は紫式部ではないという説もありますが、男性原理に基づく「個」ではなく、紫式部が女性としての「個」である自分の物語をつくりだしたと読み解く事によって、『源氏物語』全てに一貫性が出てくるという主張は説得力があります。 いろいろ女性たちも分析していて面白いのですが、河合隼雄も男性なので、男性を分析すると筆が冴えますね。 ぐじぐじと後悔するする事の多い<薫>を「思慮深そうに見えて、ほんとうは深くないのである」と、ばっさりです。 他にも面白いアプローチがたくさんあって、読みごたえがありました。

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『夜更けのエントロピー』ダン・シモンズ

夜更けのエントロピー (奇想コレクション)嶋田 洋一 河出書房新社 2003-11-23by G-Tools 七つの短編からなる、すこし不思議な物語のアンソロジーです。無秩序、不確かさから来る不安と死の影が全編を覆っていて、表題を『夜更けのエントロピー』にしたのも頷けます。 ぼくは母が大好きだった。その母の葬儀が終わって棺が地中に下ろされると、ぼくたち家族は家で母の帰りを待った。この一文ではじまる「黄泉の川が逆流する」は“死んでしまった母”とぼくたち家族の生活を描いています。まるで世界が裏返っていくような不気味で哀しい物語で、雰囲気が私好み。 「最後のクラス写真」はゾンビの子供たちに授業をするギース先生の孤独と、校舎に侵入する大人のゾンビと先生が闘う場面が圧巻。ラストでは思わず涙してしまいました。 他に、父の不安と娘を描いた「夜更けのエントロピー」 かつての教え子が司る時空で殺し合いのゲームをする「ケリー・ダールを探して」 「ベトナムランド優待券」 「ドラキュラの子供たち」 「バンコクに死す」 を収録。

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『永遠の出口』森絵都

永遠の出口森 絵都集英社 2003-03by G-Tools 「永遠」という響きにめっぽう弱い子供だった紀子の成長物語です。この「永遠」というのは「永遠に~できない」という恐れなのです。 すべてを見届け大事に記憶していきたいのに、年を経るにつれ、この世が取り返しのつかないものや零れ落ちたものばかりで溢れている事を知り、心に残せるものなどごく限られた一部にすぎないのだ、と世界の大きさを知って、大人になっていくのです。 小学生の時のお誕生会にはじまり、思春期、受験、恋愛などいろんな節目で紀子は痛みや諦めを知っていきますが、このあたりの微妙な感情が丁寧に描かれていて感心しました。 著者は1968年生まれで、物語もこの時代の風俗満載、「口裂け女」やら「サンリオのファンシーグッズ」やらが登場します。同世代の人にとっては、ある種のノスタルジーをおぼえるのではないでしょうか。 しかしヤンキーの人たちってのは、時代が変わってもあまり変わらないですね。

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『陰陽師 瘤取り晴明』夢枕獏

陰陽師 瘤取り晴明夢枕 獏文藝春秋 2001-10by G-Tools 「こぶ取りじいさん」を下敷きに、お馴染み陰陽師のシリーズをほのぼのとした絵物語に仕上げています。 薬師の双子の翁、右頬に瘤のある大成と、左頬に瘤のある中成が薬草を取りに山へ入る。夢中になるあまり道に迷った大成は鬼たちの宴に遭遇、ひもじさと恐ろしさから薬効のあるキノコを食べてトリップ、宴に乱入し踊り狂う。大喜びの鬼たちは、再び宴に来いと約束させて質に瘤を取る。それを聞いた中成は、自分の瘤も取ってもらおうと大成になりすますが、評判を聞いて各地から集まった鬼の大観衆を前に硬直、ピンチに陥り晴明に助けを求めるのだった。 楽しくなってあらすじを書いたら長くなってしまいました。既にあらすじではありません。 しかも本と雰囲気が違うような……。(笑) 村上豊の絵が日本昔話みたいで、百鬼夜行もかわいいのです。 「我らは人のように約定をたがえるわけにはゆかぬ」 と鬼が言うのですが、なんだか耳が痛いです。 私だけですか?

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『雪沼とその周辺』堀江敏幸

雪沼とその周辺堀江 敏幸新潮社 2003-11by G-Tools 普段生活していて目や耳にする事を、こんな風に小説にしてしまうなんて、物を書く人ってすごいですね。 山間の静かな町、雪沼を舞台にした連作短編集です。 ボウリング場や書道教室、中華料理屋を営む人びと、そしてサラリーマンなど、普通の人たちの日々とこだわり、それまでの人生を緩やかに細やかに描いています。 私たちが日常体験しているのだけれども、特に意識していない感覚を、形容詞や比喩を巧みに使って感じさせてくれるのです。 特別な仕掛けやめまぐるしい話の展開などなくても、読む事がとても楽しく思えました。

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『天国はまだ遠く』瀬尾まいこ

天国はまだ遠く瀬尾 まいこ新潮社 2004-06-23by G-Tools 八方ふさがりの主人公が、何もかも終りにしようと見知らぬ田舎の民宿で事に及ぶが失敗。民宿たむらの主人や田舎の時の流れに接していくうちに、生きていく気持ちが戻ってくる、という話。 右ストレートをお見舞いしたくなるような主人公なのですが、行き詰まっている時はこんなもんかなとも思います。他人から見れば「そんなこと」と思う事でも、本人にとっては苦しい事にかわりはないんですよね。でも何かのきっかけでその自分を客観視できれば、「終りにしよう」という思い込みからは解放されるのです。 悲愴感漂うへなちょこな主人公が、死に場所を選んだり薬をのんだりする場面がひどく滑稽。そして普段感じてもいなかった、ご飯の美味しさを噛み締めてしまったりします。 しかし決して説教臭くないし、なにより主人公はへなちょこなままなのです。 『図書館の神様』で、主人公は文学が大好きになりました、なんてオチにしなかったことに私は拍手しました。 主人公が劇的に変化したり、死や生を美化するような安直なラストにせず、自分の足で歩いていくしかない、というスタンスをとるこの著者には好感がもてます。

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『月ノ石』トンマーゾ・ランドルフィ

月ノ石 (Modern & Classicシリーズ)Tommaso Landolfi 中山 エツコ 河出書房新社 2004-04by G-Tools 大学生のジョヴァンカルロは休暇で田舎の親戚宅にやってきた。もてなしの席の開け放たれた入り口の向こうから一人の女性が現れる。グルーという名のその女性のスカートからのぞいていたのは、先の割れた山羊のひづめだった。親戚一家の目には、人間の足にしか見えないようで…。 ジョヴァンカルロの恋物語とも読めますし、ちょっと違いますけど、牧歌的な『ファウスト』といった趣の話とも読めました。 彼がグルーに連れられ、山の奥に分け入り、既に死者となっている山賊の宴にいざなわれます。日常の観察眼に裏打ちされた田園の風景や月光の下での自然の描写、その延長にある怪異が妖しく美しく表現されています。ユーモラスな比喩表現のせいか暗さはあまりなくて、のどかな印象をうけました。

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『実録・外道の条件』町田康

実録・外道の条件町田 康メディアファクトリー 2000-10by G-Tools スタッフ側の人間に対して敬語を使う無能編集者。 幼児性が強いマネジメント事務所の輩。 ボランティアを標榜して無報酬取材を強要する不遜の者達。 雑誌に載っているもの、最先端、という言葉を無自覚に信用して思考停止の雑誌編集者。 どこへ行っても外道ばかりの主人公が、何故その者達が外道なのかを深く掘り下げて、時に頭を抱え、叫び、闘うのです。 外道を殲滅すべく、復讐の鬼と化した俺は三年間洞窟にこもって本稿を書き綴った。しかしながら外道の皆さんは今日も元気に活躍している。 こんなあとがきが素敵。

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『図書館の水脈』竹内真

図書館の水脈 (ダ・ヴィンチ・ブックス)竹内 真メディアファクトリー 2004-04by G-Tools 倒すべき父は既に他界し、探すべき母は実家で健在の売れない作家、甲町(45才)は『海辺のカフカ』に導かれ旅に出た。同じ物語を読んで四国にやって来た、ワタルとナズナのカップルと高松で巡り会う。 村上春樹トリビュートというあざとい本ではあるのですが、それを超えて、すべての物語に感謝をこめた本といった方がいいかもしれません。 私はちょっと肌に合わなくて村上春樹は読まないのですが、これは楽しめました。ファン心理や本好きに共通する行動様式が可笑しいし、芋づる式に多くの作家の著作が登場するのも面白いです。良い物語は多義的で重層的であるという主張もうなずけますね。 春樹ファンも、そうでもない人も、本が好きなら楽しめるのではないでしょうか。

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『熊の敷石』堀江敏幸

熊の敷石 (講談社文庫)堀江 敏幸講談社 2004-02by G-Tools 熊の敷石/砂売りが通る/城址にて の三編を収録。 『熊の敷石』はフランスが舞台です。私とユダヤ人の友人ヤン、そして滞在先の家主の女性と盲目の息子。適度な距離をおきながら、相手と「なんとなく」という感覚で繋がる。その感覚の部分が文章を読み進めるうちに浮かび上がり、読み手にしっくりと馴染んできます。 小説に思索的な部分が多く出てくるのですが、きちんと作品の中に消化吸収されていて、「私」の思考の流れで時間軸が揺れ動く文章が、読んでいて心地よいです。冒頭にある夢の記述を読後再び読むと、意味がよく理解できて「ほぅ」とため息が出そうでした。

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『朽ちた樹々の枝の下で』真保裕一

朽ちた樹々の枝の下で (講談社文庫)真保 裕一講談社 1999-02by G-Tools 小説という虚構に現実を持ち込んではいかんと思いつつ、地元が舞台なので「うわーん地名のルビが間違ってる! おお、そこはよく通るよ」などと変な読み方をしてしまいました。 気がつくと事件は終息に向かっていたという……。 森林作業員の尾高は、自衛隊演習場近くの森で一人の女性を救出するが、彼女は謎を残したまま姿を消す。その女性を追ううちに、彼の身辺では異変が起きて…という話です。 事件そのものより、人の心の機微を描いた部分に目が行く本ですね。人間関係で相手の気持ちを推し量ることって難しくて、どうしても自分中心に物事を考えてしまいがちです。よかれと思うこともただのエゴだったり。事件が終わったあとの登場人物たちの気持ちのおさめ方が大人というか、とってつけたような感じがしなくて好感が持てました。

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『アヒルと鴨のコインロッカー』伊坂幸太郎

アヒルと鴨のコインロッカー (ミステリ・フロンティア)伊坂 幸太郎東京創元社 2003-11-20by G-Tools 『重力ピエロ』といい、この本といい、カバーがいいですね。 本棚に並んでいると嬉しくなります。 「一緒に本屋を襲わないか」 アパートの隣人である河崎に誘われて広辞苑を盗みに行く「僕」。「わたし」と彼氏のブータン人留学生ドルジが、ペット殺しの若者たちと遭遇する二年前。話はこのふたつを交互に進行させる構成になっています。 一応反転しようかな↓ 先に気になった事を書くと、琴美の危機意識が希薄なのがちょっと不自然に感じました。 「警察に行かんのか?」と虚構の世界につっこみを入れまくりです。 ストーリーは、ばらばらのエピソードを収束させて一枚の絵をみせてくれるのはいつもの如くなのですが、今回はそれが完成した時に、登場した人物たちの奥行きが増すのです。湿っぽさとは無縁のクールな筆致で、これだけの余韻を残すところには素直に感動してしまいました。 反転終わり↑

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『いつか王子駅で』堀江敏幸

いつか王子駅で堀江 敏幸新潮社 2001-06by G-Tools うわ~、この本文庫化しないのでしょうか? 2001年発行の単行本なんですけど、文庫化の基準て何? 文庫本で持って歩きたいぐらい気に入ってしまいました。 都電荒川線の沿線に暮らす人々と「私」の日常を描いているのですが、特別何かがある、という訳ではありません。 紺青の昇り龍の刺青を持つ印章彫りの正吉、居酒屋「かおり」の女将、大家の米倉と娘の咲といった人びとのエピソードと、島村利正、安岡章太郎、岡本綺堂などの著作に関する思索、競走馬のテンポイントの記憶、これらを絶妙に絡ませて物語を練りあげていて、味わい深い作品に仕上がっています。 丁寧に丁寧に言葉を選んで、読み手の五感に働きかける手腕がすばらしくて、全部ここに引用したいぐらい。 いつまでもこの世界に浸っていたいと思わせる本でした。

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