2007年12月27日

『宇宙のランデヴー』アーサー・C・クラーク

4150106290宇宙のランデヴー (ハヤカワ文庫 SF (629))
アーサー・C・クラーク
早川書房 1985-09

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大隕石から地球を守るために、小惑星の軌道を監視していたスペースガードは、2130年に大きな物体を探知します。それは直径20km、長さ50kmはあろうかという円筒形の物体でした。突如あらわれた人工物「ラーマ」に腰を抜かした人類は、調査船を派遣し内部に侵入する…という話です。

ラーマがどこから来てどこへ行くのか、目的は何なのかは全くわかりません。内部の光景にただ息を呑むばかりです。隊員たちの驚きの体験には危険もあるし、太陽系社会の間でもひと悶着あったりするけれど、雰囲気はなんだか明るいです。私はそこに宇宙への畏怖と他の生命への敬意を感じます。

続編がえらく評判悪いようなのですが…。
よ、読まないほうがいいのかな。
タグ:SF 翻訳
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2007年12月24日

『大奥 第三巻』よしながふみ

4592143035大奥 第3巻 (3) (ジェッツコミックス)
よしなが ふみ
白泉社 2007-12-20

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もう発売してるんだ…! 風味絶佳な日々―読書日記―さんの記事を読んで、早速本屋に走りました。
三巻も面白い。失速しませんね。
家光と有功(お万)の間には子ができず、春日局は家光に世継ぎを産ませるべく、家光の閨から有功を遠ざけ、別な男を送りこみます。家光と有功のふたりは苦悩しながらも、それぞれの分野で政治力を発揮していきます。

赤面疱瘡によって、ついに体制側の制度も変化を余儀なくされます。史実の流れに、漫画のSF的な設定と、登場人物の個々の感情をうまく縒り合わせてあって、こうなることが必然であったかのようです。ラストは第一巻の吉宗の姿に重なるようで、ぞくぞくしました。そういや第一巻「お万好み」の風流な趣味もここから始まっているのだなあ。
このあと吉宗のところに話は戻るのでしょうか。お玉も気になりますし、有功のもだえる姿をもう少し見たいような気もするのですが。
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2007年12月22日

『バルタザールの遍歴』佐藤亜紀

4167647028バルタザールの遍歴 (文春文庫)
佐藤 亜紀
文藝春秋 2001-06

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あらー、面白かったです。もっとお耽美な小説かと誤解してました。
ひとつの肉体を共有する双子、メルヒオールとバルタザールの物語です。大戦間近のヨーロッパで、ウィーンの没落しつつある貴族の跡取りとして生まれた彼らが、自らの放蕩と叔母の策略、その他もろもろの理由から、大変な勢いで落ちぶれていきます。

女に逃げられてめそめそするのも、肉体から抜け出し非物質的実体となって歩き回ったりする荒唐無稽さも、等しく距離をおいた視点で描かれていて、この突き放したような感じがたまらなくいいです。
愛想がないぐらいさらっとした書きぶりが、かえってユーモアを生み出し、双子の遍歴から時代の社会情勢や土地土地の風景を見渡せるなんて、ひたすら拍手です。
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2007年12月19日

『宝島』R・L・スティーブンソン

4834018040宝島 (福音館文庫)
ロバート L スティーブンソン
福音館書店 2002-06-14

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先日読んだ『灯台守の話』に、スティーヴンソンがちょい役で出てきます。彼の祖父や父は灯台建築技師で、『灯台守の話』の灯台もスティーヴンソンの一族が建てたという設定でした。主人公はシルバー、盲目の灯台守はピューという名前なのですが、訳者の岸本さんの解説で、『宝島』にはシルバーやピューという名前の海賊が登場すると知り、どれどれ? という興味で読んでみました。

宿屋「ベンボー提督亭」の息子ジムは、客の老水夫が残した宝島の地図を手に入れます。ジム少年は地主さんや医者のリブジー先生と冒険の旅に出たものの、おしゃべりな地主さんの雇った船員のなかには、恐ろしい海賊が紛れ込んでいて、裏切りや息が詰まる駆け引きが展開していくというお話です。

いきなりですが宝島の地図を見た瞬間、…九州? と思いました。だってだって島の北西側は長崎みたいに半島になっているし、ラム入江は別府湾みたいだし、南側の骸骨島だって桜島ぽいですよ。ちょっと無理があるけど。その見立てでいくと、お宝の大部分は熊本に隠され、あと佐賀と福岡のあたりにも隠したしるしが付いてます。
宝島九州説はもういいですか?

物語自体はお宝探しの夢もあるけれど、荒くれ男たちの肉づけがとてもよいです。人間同士のやりとりが演劇の一場面のように、くっきりと丁寧に描かれていました。私が子供だったら読み聞かせてもらいたいなーなんて思います。でも血なまぐさい場面もあって、興奮して眠れなくなるかも。

あ、名前の話はシルバー、ピュー、ほかにダークも登場してました。こっちのシルバーの個性は強烈です。
タグ:翻訳 児童書
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2007年12月16日

『夏期限定トロピカルパフェ事件』米澤穂信

4488451020夏期限定トロピカルパフェ事件 (創元推理文庫)
米澤 穂信
東京創元社 2006-04-11

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小市民シリーズ第二弾、『春期限定いちごタルト事件』の続編ですね。
高校二年生になった小佐内さんと小鳩くんの、夏休みの事件です。
<小佐内スイーツセレクション・夏>計画の、これでもかという甘味の波状攻撃には参りました。ああもう、ケーキ食べたい。まちのお菓子屋さんの中から、小佐内さんによって選ばれた、とっておきのスイーツを味わいつくすという計画です。これに小鳩くんが引きずりこまれるのでありました。

小佐内さんは「狼」と形容されているけれど、牝豹だな。音をたてずに忍び寄り、狙った獲物は逃さない牝豹です。
これ、ほのぼのと楽しく読ませて謎解きをしてああすっきり、で終わっても面白いのですよきっと。そこにとどまらず、主人公の被った仮面も剥ぎ取って本性を暴くわけです。そういう容赦のなさ、キツさも作品の全体像にきちんと組み込まれて機能しているのがすごいですね。こういう破壊力は好きなので、これからも期待してます。未読の作品もぼちぼちと味わってみようかな。
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2007年12月14日

『灯台守の話』ジャネット・ウィンターソン

4560092001灯台守の話
岸本 佐知子
白水社 2007-11

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十歳の少女シルバーは、たった一人の肉親である母親を失い、灯台守の老人ピューに引き取られます。灯台守の仕事は灯を入れて光の世話をすること、そして物語ること。百年あまり前に、このスコットランド最果ての地に生きた牧師ダークの物語を聞くシルバー。やがて灯台は無人化され、シルバーは自身と世界を繋ぐものを求めて旅に出る…という話です。

全体に流れている思想は、灯台が夜の海を照らすように、物語が寄る辺のない人生を照らし導くものだ、ってことでしょうか。
挿入されるお話や、シルバーをとりまく人や物がとっても素敵。カモの羽ぶとんの描写なんか、シュールでキュートでユーモアがあって身悶えしました。ピューと過ごした灯台時代は面白いです。それだけに後半の時系列が入り乱れ、たたみかけるような展開は、うーん、どうかな。溢れる言葉にちょっとついていけないかな、と思うところがあって、遠巻きに眺める感じになってしまいました。
でも、ダークの暗い海に沈みこんでいくような苦悩、シルバーが得た物語のきらめきには、伝説のような詩情があって、そこは良かったです。

【関連記事】
『宝島』R・L・スティーブンソン
タグ:翻訳
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2007年12月10日

『記憶の書』ジェフリー・フォード

4336048126記憶の書
ジェフリー・フォード 金原 瑞人 谷垣 暁美
国書刊行会 2007-01

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『白い果実』の続編です。三部作の第二部になるのかな。
主人公は第一部と同じくクレイ。現在クレイたちが暮らすウィナウの地に、独裁者ビロウが爆弾鳥を送り込み、住民に眠り病が蔓延します。特効薬を求めて旅立ったクレイは、ビロウの記憶の宮殿に潜入し手がかりを探すのですが…という話。

『白い果実』比べると、少々軽薄な印象を受けるのですけど、ページを繰る手を減速させない面白さは健在でした。個人的には前作の文章のほうが陰影があって好みです。
「記憶の宮殿」とは、記憶を引き出す鍵になるもので構成された場所です。ものや人のひとつひとつが象徴的意味を担っているのです。でも記憶がすなわち真実とは限らないわけで、不確実なエピソードが共鳴しあって生まれる男の物語には、生身のときにはうかがい知れない、心のひだも見え隠れしていました。
それにしても、クレイの傲慢なようで善良、主体性があるようで意外にムードに流されやすい性質ってのは面白いなー、と思います。
タグ:翻訳 幻想
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2007年12月07日

『打ちのめされるようなすごい本』米原万里

416368400X打ちのめされるようなすごい本
米原 万里
文藝春秋 2006-10

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週刊文春連載の「私の読書日記」と、あちこちに掲載された書評を集めた二部構成の本です。

食べるのと歩くのと読むのは、かなり早い。
とおっしゃる米原氏は、書評も切り込み隊長的な勢いがあります。褒めるときも全力です。彼女の文章を読んでいると、食べるのも読むのも遅くて風呂も長い私も、馬力がでるような気がしてくるのです。
幅広いジャンルの山ほどある本のなかから、興味をひかれたものもいくつかありました。免疫学者の多田富雄の著作が面白そうで早速メモメモ。

読書日記の連載中に癌になり、治療に関する様々な本を渉猟し、あるときは治療そのものを体験して、率直な意見を述べる彼女の姿には、なんだかすこし胸が苦しくなります。病気のことを知りたい、治療の内容を納得してから受けたい、そのために相手と意思の疎通をはかりたい。彼女の行動基準は明確です。なれどその望みがかなわない場面も多々あって、そんななかで連載が途絶えたことが、ただただ残念です。
タグ:批評
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2007年12月03日

『地下室の手記』ドストエフスキー

4334751296地下室の手記(光文社古典新訳文庫)
安岡 治子
光文社 2007-05-10

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腹を抱えて笑いました。
四十歳の元役人の男が、その自意識の過剰さゆえに周囲との関係を絶ってひきこもる話です。

Tでは自身の現在の境遇と見解を述べています。が、これが抽象的で全然わからん。ひきこもっている地下室から、外の世界への呪詛と言い訳を延々と垂れ流しているのだけは理解しました。
で、なんで俺がこうなったのかを明らかにする手記がUで登場します。
他人の目に映る自分を意識しすぎて、あさっての方向に弾ける主人公が可笑しすぎます。
嫌な思いをした相手を恨み続け、暴露小説を書いて出版社に送ってみたり、謝罪してくれないと決闘だぞ、と妄想が炸裂する手紙を書いてみたり。結局手紙は出来事から二年も経っていたので出すのをやめるわけです。高いプライドと、自分に対する周りの評価が不当に低いという断定に引き裂かれたイカレた行動に、そんなの相手は覚えてないって! などと、合いの手を入れっぱなしでした。そしてUを読んでからTに戻って、彼のねじけぐあいを再び確かめてみたくなるのですよね。これは主人公の罠にかかったのではなかろうか…なんて思ったりします。しかし彼の熱狂っぷりはすごいですよ。
タグ:翻訳 笑った
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2007年11月30日

『木』幸田文

4101116075木 (新潮文庫)
幸田 文
新潮社 1995-11

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幸田文が樹木に逢い、見つめて、生に対する思いを深くするエッセイです。

こんな木があるよと聞けば、ぜひ見なければと無理を言っても駆けつける。せっかちで貪欲なまでの姿勢は、年齢のこともありチャンスは逃さずというところからくるのだけれど、力強くて正直で、かえって気持ちがいいです。
えぞ松の倒木更新や、山野ですっくと立つ檜に、手で触れ耳をあて息吹を感じ取り、また美しい材木となった姿もいとおしむ、情感あふれる細やかな描写はやっぱりこの人の身上だなあと思います。

そんな彼女は古木の根元の、こぶが癖をもって盛り上がっているのが苦手らしいです。古いものが身に漂わせているこわさを感じるのだとか。森や沼を支配する主(ヌシ)への畏怖の念みたいなものでしょうかね。
屋久島の縄文杉を見て密かにおびえています。
「この杉は、なにか我々のいまだ知らぬものに、移行しつつあるのではなかろうか」なんて。
失礼ながら可愛くてふふっと笑ってしまいました。
タグ:エッセイ
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2007年11月22日

『青年のための読書クラブ』桜庭一樹

4103049510青年のための読書クラブ
桜庭 一樹
新潮社 2007-06

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ミッション系のお嬢様学校、聖マリアナ学園。異形の者が集う読書クラブには、暗黒のクラブ誌がありました。代々の部員によって記録された、学園の正史に残ることのない珍事件の数々とは…。

装丁と内容と文体がぴたりと合って、乙女の秘めた胸のうちと、その不完全さが示す可能性が凝縮され、小さな世界が出来上がっています。
また、クラブ誌を通して描かれるのは、学園の百年にわたる年代記でもあります。五つの事件のなかでは、第二章の聖女マリアナ消失事件がぴかいち。創立者である修道女マリアナのフランス時代に遡るお話です。これですね、設定がベタベタなんですが、不覚にも泣きそうになりました。作者の狙ったところに、胸に的を貼り付けて飛び込んでしまいました。撃たれました。

くるくる回るような語りのなかに存在する乙女たちは、勇ましく、ちょっと哀しく、またふてぶてしくもあり、読みながらにやにやしてしまうのでありました。
タグ:青春
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2007年11月19日

『白い果実』ジェフリー・フォード

4336046379白い果実
Jeffrey Ford 山尾 悠子 金原 瑞人
国書刊行会 2004-08

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「これが監獄なのか?」
 すると伍長はどういう訳か、ホテルの建物でなく自分の頭を指さした。「これが監獄だ」

重油のなかを泳ぐみたいに読むのが大変な本かな、なんて勝手に想像していたら、なんのなんの、すらすら読めて面白かったです。

独裁者ビロウがつくった理想形態市では、統治のために観相学を用いています。一級観相官のクレイは、教会から盗まれた、この世の楽園に実るといわれる「白い果実」を捜すため、辺境の町アナマソビアに派遣されます。そこからクレイの波乱万丈の物語が始まりますが、これがけっこう笑えます。
クレイは幻覚薬を常用していて、夢と現、絶好調とどんよりの間をゆらゆらしているのです。田舎の人々や観相学を学ぶ美女アーラと接するクレイが、高慢ちきから木偶の坊へと変わり、また自信を取り戻してしゃっきりする様子を見ていると、この人はすごく単純なのではないかと呆気にとられます。三章で来し方をふり返り、しみじみするクレイがこれまたとほほ。

青い鉱物と化す鉱夫、果実とともに発見された巨大な葉巻のような「旅人」。繰り出されるイメージの数々は、ときに静謐な美しさを感じさせます。解説によると三部作とか。続きを読みたくなりますね。
タグ:翻訳 幻想
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2007年11月16日

『死者を起こせ』フレッド・ヴァルガス

4488236022死者を起こせ (創元推理文庫)
Fred Vargas 藤田 真利子
東京創元社 2002-06

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おフランスのミステリー。
失業してお金がない三人の歴史学者、専門が中世のマルク、先史時代のマティアス、第一次大戦のリュシアンは、ボロ館を格安で借りて引っ越してきます。隣には元オペラ歌手の女性が住んでいて、ある日彼らに頼みごとをするのです。庭に突然見知らぬ木が植えられており、気持ちが悪いので、その木の下を掘ってみてほしいと。掘った結果は何もなし。しかしその後、彼女が失踪する…という話です。

結構面白く読めました。
どこかロマンチストなところがある三人に代わり、一緒に住むマルクの伯父の元刑事が、人を観察し疑う、えげつない役割を引き受けて捜査を引っぱっていきます。しかし最終的には歴史家であり追求者であるマルクたちが謎を解明せずにはいられなくなるわけです。

三人の歴史学者のちょっとだめで風変わりなところに魅力があるし、舞台はパリなんだけれど、おしゃれで夢があるだけではなく、若者の失業率が高く、建物が古く、小汚いところもあって、人物たちと調和していているのがよかったです。
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2007年11月12日

『訪問者』萩尾望都

4091910149訪問者 (小学館文庫)
萩尾 望都
小学館 1995-08

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表題作の『訪問者』は、『トーマの心臓』に登場するオスカー・ライザーがギムナジウムに入る前の話です。
もうね、唸るぐらいよかったですよ。読んでる時期が違うので一概には言えないけれど、本編よりこちらのほうが好きかもしれません。

両親の破局があって母が死に、父グスタフとオスカーが放浪しますが、やがてその生活も破綻します。家族を繋ぎとめる役割を必死に担おうとしていたオスカーが超痛々しい。
パパにとって 雪の上を歩いてくる神さまは それはぼくの顔をしていたの?
このコマはとても静かなのに、母ヘラの、父グスタフのどうしようもない気持ちと、オスカーの諦念が重なり合って、音楽のように胸に鳴り響きました。
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2007年11月09日

『百鬼夜行抄 (16)』今市子

4022131020百鬼夜行抄16 [眠れぬ夜の奇妙な話コミックス] (眠れぬ夜の奇妙な話コミックス)
今 市子
朝日新聞出版 2007-11-07

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相変わらずというか、懲りないというか、積極的に怪異にかかわる開さんが暴走してます。「闇の領域に手を出すな」という蝸牛との対立姿勢は変わらないんですね。でも手痛いしっぺ返しも受けたりして、親父さんのスタンスも受け入れられる日がくる…のでしょうかね、いつか。

最初の『羽擦れの島』で三郎さんの今後が決まります。私はあの箱庭のなかが少しずつ荒んでいく様子が、ことのほか胸に応えました。ええー、なんでだろ。心にすきま風が吹き抜けましたよ。
あと管狐がかわいい。
タグ:民俗 妖怪 漫画
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『家のロマンス』加藤幸子

4103452080家のロマンス
加藤 幸子
新潮社 2006-11-29

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五百坪余りの庭がついた大正建築の館で繰り広げられる、家族の歴史の物語です。

七人の子を産んだ祖母のミヤは、この家を世界の中心と定めて暮らしてきました。大正の終りから関東大震災、昭和、戦争、敗戦と事件を経ても、家がある限りそれは変わらなかったのです。いまわの際にあるミヤの回想は、母や夫、子供たちとその家族、さらに自身について、良いことも悪いことも率直に語っていて、様々な感情を呼び起こされるものでした。澄んだ川の流れを見つめるような、ひとつひとつの物事が鮮明に浮かび上がる曇りのない文章が素晴らしい。

祖母が死ぬことで、大きな家に雑居していた一族はばらばらになり、館も消えていきます。孫娘のヨシノの語る第二部は、家に固着した祖母と、あらゆる家は仮住まいだという感覚のあるヨシノを対比しながら、一族のその後を追っていきます。

それぞれが生きる場所、たどり着く場所、どこを家と呼ぼうがかまわない。望んで夢見る場所、たましいが行き着くところを「家」とするなら、それはもうロマンスの対象に他ならない、そんな風に感じました。
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2007年11月06日

『暗いところで待ち合わせ』乙一

4344402146暗いところで待ち合わせ (幻冬舎文庫)
乙一
幻冬舎 2002-04

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事故で視力をなくしたミチルは、古い家に一人で暮らしています。家の裏手には駅があります。ある日そこで殺人事件が起きて、容疑者となった男がミチルの家に入り込む…という話。

ミステリー色もあるけど、不器用で寂しいミチルとアキヒロが、互いに距離を測りながら近づいていく過程が読みどころです。話が話だけにホラーにもなりそうだし、若い男女=恋愛=ナイーブでふわふわした雰囲気にもなってしまいそうなところを、オーソドックスな文章と人物造形でしっかりとした空間をつくりあげています。そしてその空間の片隅に、読んでいる自分が入り込む余地がある、そこが一番よかったです。
タイトルやカバーから受ける印象より、読者の間口が広い小説だと思います。
タグ:ミステリー
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2007年11月02日

『源氏物語を読むために』西郷信綱

4582765343源氏物語を読むために (平凡社ライブラリー)
西郷 信綱
平凡社 2005-04

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もっとお堅い本かと思ったら、意外に読みやすかったです。でもこの本は源氏物語を読んだことがあって、内容をある程度把握している人向けですね。

そもそも源氏物語は、紫式部が宮廷とその周辺にいる女性読者に向かって書いたものです。貴族の子女が「きゃー」とか「わー」とか思いながら読んだのでしょうね。だからといって軽んずることなく、さりとて権威主義にも陥らず、時代背景や端役の意味するところを、具体的にポイントを押さえて読解していきます。
例えば平安中期には貴族はみな仏法に入れ込んでいたわけです。仏法を禁断して暮らすことは後生をおろそかにすることで、重い罪であるとまで考えられるようになります。私はそれをなんとなくわかったように思っていました。でも娘と一緒に伊勢に下っていた六条御息所の言葉を引いて、
仏縁を離れた宗廟伊勢は今や「罪深き所」へと逆転したのである。
と指摘されて、そんなに深刻だったのかー、全然わかってなかったよ、すまなかった、と頭を下げた次第です。


主要な登場人物の運命という縦糸に、乳母子や女房といった端役たちの動きという横糸が組み合わされ、玄妙な人間地図が織り出されている、そんな所に気を配りながら改めて源氏を読んでみたいです。
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2007年10月30日

『人が見たら蛙に化れ』村田喜代子

402264334X人が見たら蛙に化れ (朝日文庫)
村田 喜代子
朝日新聞社 2004-09-17

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店師にハタ師に掘り師。骨董にかかわる男女の悲喜こもごもを描いた話です。

店師は文字通り店舗のある骨董業者、ハタ師は店舗なしの業者です。ここに出てくる飛田夫妻は、各地の旧家をまわって初荷の買い出しを主に行っています。そして掘り師は古い窯跡を掘って焼き物を手に入れる…つまり盗掘を行う人なのです。

お宝を求めてさすらい、物が高値で売れたと喜んだり、当てが外れてがっかりしたり、彼らの日常はいかがわしくてあまり褒められない側面もあるけれど、どうも憎めないんですよね。
掘り師が人目を忍び泥にまみれて発掘し、「これは!」という物を見つけたときには、焼き物が放つ魅力とそれが生み出すカネの魅力で、アドレナリンがどばっと出るのだろうなあ。
骨董の世界を覗き見しつつ、人物たちの欲望や男女の機微も嫌味なく読める本でした。
タグ:骨董
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2007年10月26日

『アイロンと朝の詩人 回送電車V』堀江敏幸

4120038661アイロンと朝の詩人―回送電車3
堀江 敏幸
中央公論新社 2007-09

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エッセイや書評など短い文をあつめた散文集の第三弾です。

次の行動に移るために待機する場所、という切り口で二つの異なる場面を融合させる『ネクストバッターズサークル』とか、モーニングセットの注文から広がるシュールな妄想話『スポーツマンの猫』なんかは、エッセイとも小説ともつかない、いつもの感じで楽しめました。

あとは言葉や読書にまつわる話が面白かった。
学生たちと一緒に谷川俊太郎の詩「みみをすます」を読んで、気になった語句について質問したところ、「おし」とか「いざり」など、身体にかかわる語彙がぽかりと抜け落ちていた、というのがありました。時代や育った環境を思えば知らないのも無理はないかも。そこで「いざる」という動きとそれにともなう擦過音、さまざまないざり方によって醸し出される座の空気、目線の高さに話が及んでいきます。ひとつの言葉から喚起されるイメージ、音、視点は読む人によって千差万別だろうけど、私自身に重ね合わせてみて、言葉そのものを知らずに、そこから何一つ汲み取ることなく、ただの文字列として素通りしてやしまいかと感じて、取り返しのつかないような、ちょっと落ち着かない気持ちになりました。
タグ:エッセイ
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