『輝く断片』シオドア・スタージョン

輝く断片 (奇想コレクション)大森 望 河出書房新社 2005-06-11by G-Tools 八編収録の短編集。後半の作品の内容が濃いですね。 登場人物の物の考え方がやけに印象に残りました。彼らはあるきっかけによって、心の奥底にある劣等感や感受性が刺激され、平凡な日常から逸脱していきます。ほとんど強迫観念なんですが、現実味のある具体的で細かい描写のすき間から、悲痛な声がもれてくるようです。 醜悪なのは孤独な彼らよりも、周囲のほうなのではないかと思えてきます。

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『散りしかたみに』近藤史恵

散りしかたみに (角川文庫)近藤 史恵角川書店 2001-08by G-Tools 歌舞伎座での「本朝廿四孝」公演中、決まった場面で一枚の花びらが必ず舞う。出演している瀬川菊花は、弟子の小菊に今泉を連れてくるよう指示。誰が降らせる花なのかを探るうち、梨園で繰り広げられる恋と隠された事実が明らかになっていく。 探偵の今泉文吾と女形の瀬川小菊が登場するシリーズの一冊。後に出た『桜姫』を先に読んでいるのですが、演目と登場人物を織り合わせるような型は一緒です。結局この悲劇は今泉が関わらなくてもいずれ起こっただろうし、探偵がいてもいなくてもいいような状況なので彼の影は薄いです。でも『ガーデン』を読むと事情があるのですね。今泉と山本君の話もシリーズ中に出していくのでしょうか。それともこのまま? ゆっくりと崩壊していくような雰囲気はわりと好きです。 しかし好みの話をしてしまうと、虹子がイヤ。 精神面でも物質面でも人にぶら下がっていて、それでいて退廃的にも計算高くもなれない。その状態が単に幼くて傲慢なだけにしか見えないのです。やることがなくて退屈です、弄んだのです、罪なのです、罰なのです、と吐く自己への陶酔と憐憫の言葉に辟易しました。こういうグダグダしたのにイライラするので、へたに恋愛モノは読まないのです。傲慢さは誰でもあるし、恋愛なんざ思うようにならないもので言うのが野暮なのですけど、本音を言ってしまいました。すみません…。

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『流れる』幸田文

流れる 離婚を経験し、置屋の住込み女中となった梨花。名妓といわれる主人をはじめ、主人の娘で器量の良くない勝代、主人の姪で何事も腰が据わらない米子、芸妓の蔦次、染香、なな子ら主家にかかわる人間と、うつろう花柳界をありのままに見つめ、強い心で生きる彼女を描く。 とてもよかったです。 未知の場所に足を踏みいれる梨花は、おそれと尊敬をもって「くろうと」の世界を観察します。 主人の腰からくずおれる姿の美しさや、昔格のある芸者だった人の風情のある寝起き姿。これらに梨花が感嘆し、自分を顧みる場面はすごいですね。描きだされる光景と感情が、私には碁や将棋の一手をびしりびしりと打たれるように効いてきました。 それぞれの去就に表れる芸妓たちの人物像も鮮やかです。 もっと年齢を重ねたあとに、再び読んでみたい本です。

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『ガーデン』近藤史恵

ガーデン (創元推理文庫)近藤 史恵東京創元社 2002-12by G-Tools カヤという女性が失踪。同居していた女子大生の真波の元には、カヤのものらしき指が入った小箱が送られてくる。マンションの隣人でもある探偵の今泉は、助手の山本君と捜索に乗り出すが次々と殺人が起きて…。 うわあ、少女漫画みたいだなあ。キャラクターもさることながら、語りがちょっとポエムか? と思わせるものがありますよ。 それはともかく、探偵・今泉文吾初の事件です。 登場する人物それぞれが秘密を持っていて、何が起きているのかが解らない展開でした。そして各人の事件にかかわる動機がなかなか痛いです。 例えば平凡であることをつまらないと考えて周りを軽蔑していながら、誰かに自分を見て欲しいな、自分が特別でありたいな、と思う気持ち。 こんなことあります、十代のころは特に。身勝手だけれど少しばかりわかってしまうのですよ。

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『桜姫』近藤史恵

桜姫 (文芸シリーズ)近藤 史恵角川書店 2002-01by G-Tools 歌舞伎役者の娘である笙子は、若手勉強会の舞台「桜姫東文章」に招待され、桜姫を演じた銀京と出会う。銀京は幼くして死んだ笙子の兄の音也とは友人で、その死に疑問をもっているという。実は笙子自身も疑いを持っていた。妾腹で兄の死後引き取られたはずの自分が、兄の首を締める夢を何度も見るのだ。自分が兄を殺したのではないか…。 どうやら探偵の今泉文吾と、歌舞伎の養成所出身の役者・瀬川小菊が登場するシリーズ中の一冊だったようです。知らないで読んでしまいました。 あらすじで挙げた笙子と銀京の抱く疑惑と恋愛、そして小菊側のもうひとつの事件である「伽羅先代萩」公演中の子役の死を追うストーリーです。歌舞伎はあまりわからないのですけど、梨園が舞台で私立探偵が登場する設定は魅力があります。柔らかさの中にぴしりと筋が通るような、役者の所作も清々しい。…のですが、全体的に少々弱いかなあと感じます。二つの演目の内容と登場人物たちの心理にシンクロがあるのでしょうけど、描写にもう一押し欲しい気がしました。「桜姫東文章」の話のキモが、私にはよくわからんのです。実際に芝居を知っている方は、そのあたりの想像力が働いてまた違うかもしれません。 話の着地点は良かった。

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『さいはての二人』鷺沢萠

さいはての二人 (角川文庫)鷺沢 萠角川書店 2005-04-23by G-Tools 「さいはての二人」 アメリカ兵と日本人との間に生まれた美亜は、バイト先の常連客である朴さんに懐かしさ、近しさを感じ惹かれていく。 「約束」 いつか自分は変わるのだ、と故郷を逃げ出し上京した行雄は、アパート隣室の小さな女の子サキと出会う。 「遮断機」 OLの笑子は、夜の踏切の向こう側に、かつて幼い自分と母が世話になっていたおじいを見つける。 この人の書く話は、どうしてこんなにやさしいのでしょうね。 主人公たちは日常の生活で、胸に空いた穴から何かが流れ出していくような苦しみや、孤独感を抱えています。それが誰かと出会い、慈しみ慈しまれることで自分と向き合えるようになる。 書き様によっては非常にあざとい、寂しい自分が癒されるだけの、お涙頂戴小説になってしまいます。 でもそうはならないのですよね。ふとした瞬間に流れ込んでくる哀しみや、そんなこともあるさ、という言葉がさりげない。文章からかもし出される雰囲気が好きだなあと思います。

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『賢者はベンチで思索する』近藤史恵

賢者はベンチで思索する近藤 史恵文藝春秋 2005-05-26by G-Tools 21歳の七瀬久里子は、専門学校を卒業後、就職できずにファミレスでバイトをしている。ファミレスでいつも同じ席に座る国枝老人は、惚け気味との噂もあるが、公園で出会う時にはしゃきっとして別人のようだ。そんな二人が身辺で起こる謎を解決していく。 あれもイヤこれもイヤと就職できない久里子や、二浪で半引き篭もり状態の弟、部屋から出てこない弟に食事やコーヒーを運んで至れり尽せりの母親。登場人物たちに対して「甘えてないで自立しろ。病人でもあるまいし部屋に食事を運ぶ、運ばせるなんぞ論外」と思ってしまいますけど、そうすると話は進まないのですね。なにもかも停滞している久里子が、国枝老人と接するうちに気持ちがほぐれていく。この様子が謎を絡めて描かれます。 素朴な疑問なんですけど、刑事って基本的に二人一組で行動しませんか? 話を聞くときは特に。石坂刑事が一人で話を聞いたり訪ねてきたりしているようにしか思えませんが。いや、他にもう一人一緒にいるのよ、そこは想像力で補ってよ、ということですか? 違うな。 以前に家族の勤め先に泥棒が入って、刑事が話を聞きに来た時は二人でした。 家族の証言によると、スーツ姿でガタイが良くて、いかにも刑事(←先入観のなせる業)だったらしいですけど。

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『ちぎれ雲』幸田文

ちぎれ雲 (講談社文芸文庫―現代日本のエッセイ)幸田 文講談社 1993-02by G-Tools 慶応三年(1867)に生まれ昭和二十二年に八十歳で没した父、幸田露伴の最期の様子や生前を回想した随筆集。 娘である著者は幼い頃に生母を亡くし、十六歳からは炊事一切を任され、また一度嫁ぐも離婚して再び父と暮らしています。気難しくわがままな露伴との暮らしは衝突もありますが、文章からは父への尊敬の念や深い結びつきも滲んできます。 露伴が亡くなって後、折折の心境のなかで、仏事を十三年で打切ろうと定めてちょっとの間寂しかったと述べています。もう一度別れが来たという感じがするからだと。死は別れに決まっているが、死んだからといって別れが決定的に終わったのではない。死なれてのち、幾たびもいろんな別れがやって来る、と述べていて、とても共感を覚えてしまいました。 些細なことを拾い上げて心理を明らかにしていくのがうまいなと感じます。

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『ユージニア』恩田陸

ユージニア恩田 陸角川書店 2005-02-03by G-Tools 過去に起こった十七名死亡の大量毒殺事件が、複数の人間の視点で語られます。 私はこの本えらく怖かったのですけど、直接の事件が怖いわけではないんです。 以下、内容に触れるので未読の方は注意です。

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『そして今はだれも』青井夏海

そして今はだれも青井 夏海双葉社 2005-09by G-Tools 名門学園の新任教師である笑子は、生徒から妙な噂を聞かされる。学園には女子生徒の弱みを握って相手を強請る謎の教師“X”がおり、追いつめられ自主退学に至った者が複数いるという。女子生徒たちはその教師に家庭教師として個人指導を受けていたらしい。笑子と生徒たちは真相究明に乗り出すが…。 無難にまとまったミステリ、といったところです。生徒たちが中心ではなくて、笑子の視点で語られるせいか地味~な印象を受けてしまいました。 先入観で人を見てしまえばみんな怪しく思えたり、自分が常識だと思っていた事が実は狭い世界でしか通用しなかったり、なんてところは丹念に書かれています。特に粗も感じないのですけど、謎にも高校生たちにも、取り立てて魅力があるとも感じられませんでした。本を教室の中で例えると「勉強もそこそこできて問題行動もない、手のかからない生徒」でしょうか。

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『包む』幸田文

包む (講談社文芸文庫―現代日本のエッセイ)幸田 文講談社 1994-05by G-Tools 父である幸田露伴との思い出や、市井の人たちの姿をありのままにとらえたエッセイです。 なかでも表題作「包む」にある、将棋の小野五平の話が好きだなあ。 九十歳近くになった小野五平が露伴を訪ねて来ました。 巨大な包みを持った若い女中さんがお供で、包みの中身は大量のパンだといいます。訪問にあたって、高齢で動きのままならぬ自分に代わり、その女中さんに手土産をしかるべく調えるように言いつけたわけです。手間取って戻ってきたのを見ると、どこぞの小僧さんが巨大な包みを車に運びこむ。きけば女中は、小野五平が指さした和菓子店ではなく隣のパン屋へ入り、預けられた財布の中身のほとんどを使ったといいます。 で、幸田宅で小野五平が優しく洒落た挨拶を述べた後に包みを差し出します。 ここで著者は思うわけです。 この挨拶なしに大量のパンを受け取れば、女中と同じくらい若かった自分は相手を笑って慢心増長したであろう。小野先生だって巨大な包みを見たとき、あっけにとられて腹立たしかったろうし、女中さんにしても困ったであろうから、その言葉で全てが救われた、と。 小野五平が自分の驚きと、田舎出の若い女中さんの失敗と、せっかく包んでくれた小僧さんへの配慮を粋な言葉で包みこむのはさすがです。そして状況から相手の心を汲みとり、自分の気持ちまでも客観的にうけとめる著者も読んでいて気持ちがいい。 「包む」には庇う心がある、とも書…

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『DIVE!! 1~4巻』森絵都

青春だなあ、スポ根だなあ。これも児童書。 おっとりした中学生の坂井知季、高校生実力者の富士谷要一、津軽の海で育った高校生の沖津飛沫。彼らが目指すのはオリンピックです。日本ではまだマイナーな水泳の飛込み競技なんですが、アメリカ帰りの指導者である麻木夏陽子がやってきた日から、俄然夢は現実味を帯びはじめます。 話は定番といえば定番ですけど、「飛込み」を題材に持ってきたことに新味がありますね。十代の頃の恋愛や大人への反発など、流れは普通の青春モノです。でも、十メートルの高さから時速六十キロで降下、その間一・四秒の空中演技の描写が入るだけで、全体が引き締まるんですよ。そこで登場人物の思いも、読み手の思いもみんな昇華されてしまいます。 研ぎ澄まされた精神と肉体と技のかたちは、芸術作品や自然の風景などを目の前にした時と同じ感銘を与えてくれるように思います。

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『狐笛のかなた』上橋菜穂子

狐笛のかなた上橋 菜穂子理論社 2003-11by G-Tools この世とカミガミの住まう世の境目に、霊力のある獣たちが暮らす深い森<あわい>があった。そこで生まれた狐の「野火」は、人間の使い魔として生きていた。命令で人を襲い傷ついた野火は、思いを感じ取る<聞き耳>の力を持った小夜に助けられる。逃げる小夜と野火を更に救ったのは、森陰屋敷に幽閉されている少年・小春丸だった。 やがて彼らは、暗い因縁をもった二つの国の呪いの渦に巻き込まれていく。 シンプルかつストレートなお話の児童書。 誰しも生まれ落ちる境遇は選べないし、多かれ少なかれ何かに囚われて生きて行かざるを得ないものです。呪いや暴力で命のやり取りが行われる中で、はかない命を抱きしめて、胸を張って生きていく小夜や野火の姿が、まっすぐに伝わってきました。 そして野山の風景や匂い、森の精気にむせかえる青い光につつまれた<あわい>、そこを駆け抜ける野火。そんなイメージが自然と心に湧いてくる本です。 いつも思いますけど、この人の書く食べ物は美味しそうなんですよね。 胡桃餅やナス味噌入り餅などの素朴なものに対して、特にそう感じます。

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『魔王』伊坂幸太郎

魔王伊坂 幸太郎講談社 2005-10-20by G-Tools 考察することが好きな安藤は、ある日自分の力に気づく。それは自分の思っていることを相手に喋らせる能力だった。普段から世の中の動きに敏感だった彼は、その力で政治家と対決する。「魔王」 「魔王」から五年後、安藤の弟、潤也と妻の詩織は仙台に住んでいた。潤也にはじゃんけんに負けないことに代表される一種のツキがある。一方、世間では憲法改正の国民投票が行われようとしていた。世界の問題と目の前の自分の問題に揺れる詩織の視点で描く「呼吸」 以上二編収録。 あらすじを見ると堅そうですが、ちょっとまぬけな能力や脱力する会話はいつものごとしです。 私の主観ですけど、ある体制についてどうのという意味ではなくて、力で周囲を屈服させたり、一つの価値観のみが全体を覆うような世の中ってのは気持ちが悪いし、逃げ場がない社会は寒気がします。それに対してものが言える、思考を続けられる状態が保たれていればいいわけですよ。ただ、何かの「力」でもって対抗するときには、それ自体も危険をはらんでいると思ったほうがいいのではないかと。 「無邪気で無知にしか思えないが、時折、それらがすべて彼女の偽装であるような気にもさせられる女性」と、安藤が詩織の印象を述べています。詩織という人物は、社会の中で力で綱引きをする様子を眺める大衆の中の一市民(われわれ自身)、の位置付けなのかなと感じました。

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『更級日記』

更級日記―現代語訳付き (角川ソフィア文庫)原岡 文子 角川書店 2003-12by G-Tools 日記文学ということでドメスティックな内容かと思いきや、ちょっと違いました。 著者は菅原道真の嫡流、五世の末裔である菅原考標の娘。 内容は上総介の任期を終えた父に伴われて上京した13歳から、夫と死別し侘しい生活をおくる52歳ごろまでの回想録になっています。 が、例えば結婚や出産といった、女性が人生で印象深いであろう事柄に重点を置いたものではありません。著者は物語が大好きな文学少女で、『源氏物語』などを貪るように読み非常にロマンチスト。どこか夢見がちな少女時代の、姉との交流や物語への憧れ、旅で見た風景などが主に描かれています。 古典の場合、現代語訳だけで終りにすることもあるのですが(!)、原典がなかなか味わいのある文章だったので、脚注を見ながらしみじみと読んでしまいました。 しかし文法は忘却の彼方です。

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『田辺聖子の古事記』田辺聖子

田辺聖子の古事記 (集英社文庫―わたしの古典)田辺 聖子集英社 1996-10by G-Tools 田辺聖子版『古事記』です。 伊耶那岐命(イザナキノミコト)、伊耶那美命(イザナミノミコト)の「国生み」。 須佐之男命(スサノオノミコト)の「八俣の大蛇」退治。 倭建命(ヤマトタケルノミコト)が戦い、大和を目前にしてたおれ、故郷をしのんで歌い、その魂が白鳥となって空の彼方へ消えてゆく。 そんな古典を平易なことばで物語として差し出してくれます。 注釈では『日本書紀』との相違や、戦時下での皇国史観にも触れているので、『古事記』の概要と歴史の中での位置を簡単につかむのにもいいです。 荻原規子が鑑賞として文章を寄せていて、田辺聖子のスタンスを『古事記』の読み解きではなく息吹を伝える、と述べています。 まさにその通り。

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『陰陽師 太極ノ巻』夢枕獏

陰陽師 (太極ノ巻)夢枕 獏文芸春秋 2003-04by G-Tools 漫画を読んだ方にしかわからない話で恐縮ですが、わたくし、ファラオの呪いから逃れるために、もう一度小説を最初から読んでしまいました。 陰陽師、飛天ノ巻、付喪神ノ巻、鳳凰ノ巻、龍笛ノ巻、そしてこの太極ノ巻。 相変わらず晴明邸の簀子に座して酒を飲む二人です。 著者自身があとがきで「マンネリをおそれない」と書いているとおり、それがいいんですよね。 さらさらと読めて、怖い話や幻想的な話でも、どこかおかしみがあります。 今回も仕事が済んだあとに何気なくアイテムをゲットしている晴明ですけど、邸には貴重な文書などよりも、こんながらくたのほうが沢山あるのでは…と思った次第です。

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『風車祭(カジマヤー)』池上永一

風車祭(カジマヤー) (文春文庫)池上 永一文藝春秋 2001-08by G-Tools 沖縄の石垣島を舞台にした物語。 226年間も島を彷徨っているマブイ、ピシャーマに出会い恋をした少年武志。 長生きに執念を燃やし、97歳の生年祝いである風車祭(カジマヤー)を迎えるためには手段を選ばないオバァ、フジ。 しかし彼らの賑やかな日常と、信仰を忘れた島には危機が迫っていた。 うーん、最初に気になった事を書いてしまうと、漫画的なドタバタが過剰で、その部分が読んでいてだれます。八重山諸島の祭祀や言い伝え、民謡をモチーフにした物語なので、それらを一本に繋ぐために武志たちを動かす必要があるんですね。伏線のために突飛なことをさせるのはわかりますけど、狙った笑いや悪乗りの描写がくどく感じてしまいました。 良い所もたくさんありました。 行間から石垣島の光や空気が滲み出ていて、伝承も面白い。なにより読後感がいいです。 福徳のあるチーチーマーチューとターチーマーチューの兄弟や、月夜に曲を奏でて歌う慶田盛のオジィなんかは好きだなあ。 あとは「マブイ」の概念と死生観の考察がよかった。ここに著者の根っこになるものが集約されていて、創作にも影響を与えているのだろうと思います。

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『陰陽師 (13)』岡野玲子

陰陽師 (13) (Jets comics)岡野 玲子白泉社 2005-09-29by G-Tools 終わった…。長かった…。 そしてどうあってもエジプトなのですね? ストーリーなど、あってなきがごときです。伏線の回収なのか、こじつけなのか、広げに広げた神秘の大風呂敷を無理やり畳んでみました、というような最終巻でした。 え? 全然解りませんか? 私もよく解っていないので当然です。 世の中の色々な現象と人間の営みの無常観や哀しみを、陰陽師という視点から描き出す。そんなところが良かったのですけど、もう別物になってしまいました。 作者が世界の神秘的な事柄の偶然の一致というかシンクロを発見して、その興奮を無理やり漫画に結びつけちゃったなあ、という感じです。私としては、もう少し冷静に突き放した視点で話を考えて欲しかったかなあと。 神秘思想に興味のある人にとっては、面白く読めるのでしょうか。

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『あたしのマブイ見ませんでしたか』池上永一

あたしのマブイ見ませんでしたか (角川文庫)池上 永一角川書店 2002-04by G-Tools 歓楽街の一角にある社での神隠し、自分の前世を探す中学生、季節ごとに違う花を咲かせる一本の木、そんな都市伝説を八つ収録した短編集です。 コミカルな話や詩的な話、うーん、これで終りなの? なんて話もありますけど、「復活、へび女」が一番面白かったかな。 夜ごと添い寝をしていく彼女の正体を、大学生の「僕」が探るという話です。 添い寝は自分が寝ている間のことなので、相手の正体を知ろうと、敷布団に落ちた人型のくぼみを検分します。小柄で、痩せていて、甘い体臭がする、=若い女だという結論が凄い。性欲を持て余すモテない大学生の頭には、不審という文字はありません。あるのは妄想力だけです。彼が住む安アパートの他の住民も謎に絡んでいきますけど、もしかしてものすごくいい話? と思わせておいて、ちゃんとオチもあったのが○でした。

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