![]() | 酒国―特捜検事丁鈎児の冒険 莫言 岩波書店 1996-10 by G-Tools |
怪作です。
マジックリアリズム作品て、その世界を丸ごと受けとめて読めばいいのだろうなとは思います。ラテンアメリカのものは、キリスト教とインディオの土着の文化が融合していて、その体温や呼吸みたいなものが、私にとってはいまひとつ体感しにくいところがあります。
で、地理でも文化でもぐっと距離が近い中国の話になると、感覚的にわかる部分も多くなるような気がします。
内容はちょっと複雑です。鉱山都市の酒国で、街のお偉方が酒宴で嬰児の丸焼きを食べている。そんな情報を得た特捜検事の丁鈎児(ジャック)が潜入捜査する、この話がまずひとつ。
その『酒国』という小説を執筆中の作家・莫言と、実際に酒国に住むという文学青年との往復書簡があって、さらにその文学青年が莫言に読んで欲しいと送りつけてくる自作の奇妙な小説が登場します。その変な話に引きずられて、莫言先生が書く丁鈎児の運命も狂っていきます。
話は闇鍋状態でうまく説明できないのですが、土地も広いし歴史も長いし人も多い中国の、なんでもあり感が押し寄せてきます。
文学青年の押しの強いところとか、核心をうまく回避しながらコミュニケーションをはかる酒宴の空気には、えらくリアリティを感じてしまいます。
嬰児の丸焼き料理を講義するグロい場面があるかと思えば、ツバメの巣を採る一族の話のような、どこか素朴な美しさを湛えた場面もあったりして、非現実的な話でも、それもありだな、なんて気分になります。
以前に読んだ莫言の作品『白檀の刑』は、処刑の場面が残酷だけれど、様式美を追求した華麗さもあるんですよね。こちらの『酒国』には、より猥雑な力が溢れているように思います。


これ、けっこう面白そうですねぇ。マジックリアリズムの作品自体嫌いではないので、興味ありです。
「エレンディア」とかみたいなああいう感じの雰囲気で、中国っぽい話であればかなり好きそうです。
『エレンディラ』は未読なのですが、ガルシア=マルケスは、濃いなかにも何となく寂しいような雰囲気がある、という印象です。
莫言の作品は、根っこに貧しい農村と土に立つ人間の風景があるようで、汚くてグロくて暴力もあるけれど、それを饒舌と奇想で変な物語に仕上げてあります。
この本は文学青年の押しの強いところが、私が持つ中国人のアグレッシブなイメージと重なって、ちょっと面白かったです。