『北京海棠の街』加藤幸子

北京海棠の街

太平洋戦争が終わる年、国民学校三年生の佐智は北京にいた。現地で中国人から接収された「日本宿舎」に住み、庭にそびえるペキンカイドウの枝の上からは美しい街が見下ろせる。
やがて終戦をむかえるが、宿舎は「日俘管理処」となり、中国国民党軍が宿泊するようになる。
終戦後、父親が中国に残る事になった佐智は国際学校に通う。英語もできず、自己主張もしない彼女は孤立していくが、それを変えたのはコリアンの宋梅里だった。親友になった二人であったが、佐智の一家に帰国命令が出される。

著者(1936年生まれ)の中国体験を基本にした小説だそうで、終戦から引揚船で日本へ帰国するまでの二年間を描きます。
戦地へ赴く駐屯地の日本兵。国民党軍の中国兵。日本名を強制され家族を傷つけられて、日本人である佐智を快く思わない同級生。これらの人々と関わるなかで彼女は、個人と個人の繋がりの間にある戦争の爪跡、幼く経験がないゆえに相手に共感できないもどかしさなどを、皮膚感覚で感じ取っていきます。

一人の少女の目を通した波乱含みの日常が淡々とつづられ、戦争によって損なわれるものを声高に主張するのではなく、どこまでも静かな問いかけになっているところが好ましく思いました。


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