『時の旅人』アリソン・アトリー

4001145316時の旅人 (岩波少年文庫)
Alison Uttley 松野 正子
岩波書店 2000-11

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ロンドンに家族と一緒に住んでいるペネロピーは、体が弱くて学校も休みがち。本を読み、絵を描き、空想するのが好きな女の子です。療養のため、ダービシャーにある親戚の農場にやってきたペネロピーは、16世紀の荘園に迷い込み、歴史上の事件に関わった一族に出会うのでありました。

ペネロピーの滞在するサッカーズ農場は、その昔、幽閉されているスコットランド女王メアリーの脱出計画に関わった貴族の領主館でした。母方の一族は代々その領主に仕えていたのです。

しみじみと胸に残るのは、牧草地と畑と森に囲まれたサッカーズ農場の風景と、日々の営みです。この描写が緻密であたたかくて素晴らしい。ペネロピーのまなざしから、屋敷や土地に宿る人々の記憶と思いが引き出されていくようです。暖炉のある台所で作られる素朴な料理、壁にかかった道具…。

ペネロピーは今の時間から外れて過去に旅しているけれど、読んでいる私には、多重露出撮影された写真のように、300年前の人々の暮らしと運命が、現在の農場と重なって見えるように思えました。
サッカーズという、わりと狭い範囲での話ですが、懐が深くって、読んでいる間ずっとサッカーズの空気にくるまれていました。


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