2009年07月06日
読了本をまとめてメモ
『黄色い雨』フリオ・リャマサーレス
山あいの寒村にたった一人とり残された男が死に行く話です。
人も村も繁茂する植物に侵食され、降り積もる時間と記憶の枯葉の下に横たわり朽ちていく…。そんな雰囲気です。
訳者があとがきでルルフォに言及してましたけど、私はどちらかというと『ペドロ・パラモ』ほうが好きかな。
『f植物園の巣穴』梨木香歩
今自分が生きて生態系に組み込まれ、水平的に広がる生命の繋がり。親から子へ垂直に連なる生命の繋がり。抽象的な言い方になりますが、その二つが交差する点に漂いながら、心の内側を覗くような話に思えました。
今までの作品の中では『沼地のある森を抜けて』に近い感じです。物語と波長が合うと、うっかり泣いてしまう人もいるかも。
植物がちりばめられ、ときどき犬の姿になる歯科医の家内だとか、ナマズ顔の神主だとかが登場するファンタジーぽいところはやはり梨木ワールド。
『奇縁まんだら 続』瀬戸内寂聴
今までに出会った様々な人物の記憶を綴ったエッセイ『奇縁まんだら』の続編です。
相手がイケメンになると、どことなくミーハーになったり、下世話なエピソードも書いてしまう率直さが○。よく知らない作家の話でも面白く読めます。
私は俳句のよしあしもわからないですけど、久保田万太郎から木山捷平にかけての話で載っている句は、場の雰囲気や人間関係の機微を切り取っていて、滋味とユーモアが感じられていいなあなんて思いました。
あと、武田泰淳の「踊ろう」がかっこよ過ぎ。
2009年07月02日
『カレワラ物語』キルスティ・マキネン
カレワラはフィンランドの叙事詩です。
解説によるとフィンランド東部とロシア北西部にまたがるカレリア地方に伝わる口承詩に基づいた文学作品だそうで、19世紀にフィンランドの青年医務官エリアス・ロンロートによって収集され、編集されたそうな。
本書は簡易版で、お話として読むには分かりやすいです。
世界の創造にはじまり、生まれたときから年寄りで知恵があり呪術に長けたヴァイナモイネン、凄腕の鍛冶屋イルマリネン、男前で血気盛んだけどちょっと軽薄なレンミンカイネンらが活躍します。
嫁取り。幸運も富も権力も、願うものを全て手に入れることができる奇跡の物体サンポを巡る争いなどなど。
人物のキャラも立っているし、森や湖、馬に引かせたソリやサウナといったフィンランドらしい描写があって楽しいです。
愛する美しい嫁を失ったイルマリネンが、寂しさのあまり金と銀から黄金の乙女をつくる話がすごくないですか? 嫁ロボかと思いきや、いわゆる竹夫人です。添い寝です。でもそこは厳寒の地フィンランド。金属だから冷たくって寝られないのです。これが暖かいギリシアとかローマの話だったら、ひんやりして気持ちいいってことになるのでしょうか。私は何を言ってるのでしょうか。
ヨーロッパだとどうしてもキリスト教の影響があるのでしょうが、最後の話があからさまなのは何なのでしょう。教会がらみでつくられて伝わった話があったのか、ロンロートによる創作なのか…。
2009年06月28日
『ローマ人の物語 最後の努力』塩野七生
歴史上では帝政後期と呼ばれる、絶対君主政体に移行した時代を取り上げます。
文庫化している分を追い越して、今回は単行本の13巻。
軍人皇帝が乱立する事態を収拾したのは、紀元284年に皇帝になったディオクレティアヌス。彼も軍人であります。マクシミアヌスを共同皇帝に、さらに副帝を二人任命しテトラルキア(四頭政)を実施。国土を四分して防衛線を維持し、国内の安全を確保します。
平和になってよかったねと言いたいところですが、軍と官僚機構が巨大化し経費が増加、結果として税が上がります。
ディオクレティアヌスは国のシステムもいろいろ改革しています。職業に世襲制を布いたり、統制経済をやったり……。なんだか息苦しい世の中ですね。
ディオクレティアヌスが退位したあと帝国は再び内乱になり、それを勝ち上がってきたのがコンスタンティヌスです。
コンスタンティヌスといえばキリスト教を公認した皇帝。
本人の信仰の如何にかかわらず、コンスタンティヌスはキリスト教を戦略的に取り入れたのだろうなあとは思うのです。
本にも、統治の権利は人ではなく神があたえるという考えが、支配の正統性を保つのに好都合だった、みたいに書いてあります。第三部「コンスタンティヌスとキリスト教」の記述の一つ一つはそうだなあとも思えるのですが、じゃあそれがどうして他の宗教ではなくキリスト教だったのかがどうも腑に落ちないです…。私の脳細胞が死滅しているのかしら。
タグ:時代・歴史
2009年06月20日
『古代への情熱』シュリーマン
娘の名前はアンドロマケー、息子の名前はアガメムノン……!
トロイア遺跡を発掘したシュリーマンの自伝です。
ドイツに生まれたシュリーマンは働きながら苦学し、商社を設立して成功します。やがて彼は私財を投じてトロイアやミケーネを発掘調査し、さまざまな発見をするのでありました。
幼少の頃の夢を実現するという話は創作であるとか、業績に対しても批判のあるシュリーマン。それを織り込み済みで読んでもおもしろい本でした。
業績を連ねてある部分より、シュリーマンの日常や人柄がわかる記述のほうが可笑しくって惹きつけられます。
なにごとも情熱の傾け方がはんぱではなく、語学の方法も「すげー」の一言です。文法上の規則に時間を費やすより、音読と範例の暗唱だ! という強引な主張にしびれます。
夢とかロマンが強調されますが、猛勉強して何ヶ国語も身につけ、商売で財産をつくり、現地で掘りまくる、とても実際的な人だと思います。
テンションが高くて、思い込みが強くて、山っ気があるのが後世に名を残す秘訣かもしれません。あと実行力もね。
2009年06月17日
2009年06月13日
『ローマ人の物語 迷走する帝国』塩野七生
ローマの歴史上「危機の三世紀」と呼ばれる混乱の時代を描きます。
文庫で32、33、34巻。
紀元211年から284年の73年間に、22人の皇帝が登場します。荒れているなあ。ありがたい事に皇帝の一覧表がついていて、死因の項目が上から順に、謀殺謀殺謀殺謀殺謀殺自殺戦死謀殺……となっています。
唯一名前を知っていたのはカラカラ帝でした。彫像の顔つきがとても険しい。眉間の縦ジワをぐっとのばしてあげたくなります。
で、この巻で最初に登場するカラカラ帝は、ローマ帝国内の自由民すべてにローマ市民権を与えます。すると属州税が入らなくなり徐々に財政が悪化。
また、ゲルマンの侵入も相次ぎ、国土が荒廃して経済活動も低下。
肝心の皇帝はというと、軍団が司令官をかつぎあげ、気に入らない皇帝を排除するという有様です。
『ローマ人の物語 危機と克服』で、政策や事業が後に続く皇帝に継承されたかという基準で皇帝の良否を見ていきますが、三世紀になると乱立する皇帝の間に政略面での継続性がなくなり、無駄が多くなります。今までに貯めたものを食いつぶしていくみたいですね。こうもローマの死亡フラグが立ってしまうと、上り調子の共和政ローマ、危機を乗り越え繁栄するローマ帝国の在りし日の思い出が、私の頭の中を駆けめぐります。いや、まだこの巻では滅亡してないんですけど。






文庫で32、33、34巻。
紀元211年から284年の73年間に、22人の皇帝が登場します。荒れているなあ。ありがたい事に皇帝の一覧表がついていて、死因の項目が上から順に、謀殺謀殺謀殺謀殺謀殺自殺戦死謀殺……となっています。
唯一名前を知っていたのはカラカラ帝でした。彫像の顔つきがとても険しい。眉間の縦ジワをぐっとのばしてあげたくなります。
で、この巻で最初に登場するカラカラ帝は、ローマ帝国内の自由民すべてにローマ市民権を与えます。すると属州税が入らなくなり徐々に財政が悪化。
また、ゲルマンの侵入も相次ぎ、国土が荒廃して経済活動も低下。
肝心の皇帝はというと、軍団が司令官をかつぎあげ、気に入らない皇帝を排除するという有様です。
『ローマ人の物語 危機と克服』で、政策や事業が後に続く皇帝に継承されたかという基準で皇帝の良否を見ていきますが、三世紀になると乱立する皇帝の間に政略面での継続性がなくなり、無駄が多くなります。今までに貯めたものを食いつぶしていくみたいですね。こうもローマの死亡フラグが立ってしまうと、上り調子の共和政ローマ、危機を乗り越え繁栄するローマ帝国の在りし日の思い出が、私の頭の中を駆けめぐります。いや、まだこの巻では滅亡してないんですけど。



タグ:時代・歴史
2009年06月06日
『あやめ 鰈 ひかがみ』松浦寿輝
年の暮れの東京の、とある一夜の出来事を描いた三つの物語。
最初の話「あやめ」の主人公が車にはねられていきなり死ぬんですよね。でもまた立ち上がり歩き出します。
彼の日常が続いていくようでいて、もうこの瞬間から異界に横すべりしています。
「あやめ」「鰈」「ひかがみ」はそれぞれ独立した話ではあるけれど、場所や人、さらには言葉にしのばせた意味が交錯していて、その環のような世界に捕りこまれてしまいました。
今目に見えている現在と過去の記憶の輪郭がぼやけて、いつともいえぬ時をさまよう三人の男の話の背後には、うらぶれた路地とか、時の流れから切り離されたようなまちの気配が感じられます。
『もののたはむれ』もそうだけど、くねくねと歩きながら自然と浮かんでくる想念に身を委ねる、そんなシチュエーションに街の匂いが重なるような話が私は好きなのです。
タグ:幻想









